4 罪

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「あら、真田さん、タバコ吸うんですね」  店の裏でこっそりタバコを吸っていると、急に声をかけられて、俺は反射的にタバコの火を消そうとした。  高校生か、俺は。  思いとどまって、顔を上げる。 「矢島さん。店長には黙っといてくださいよ」  そう懇願すると、冴子は「ふふっ」と笑って俺の横に座った。 「わたしにも下さい」  そう言って、手の平を差し出す。  俺は面食らって、「は?」と言ってしまった。思わず目が彼女の腹辺りを見てしまう。 「……吸ったことあるんですか?」  俺がそう訊ねると、冴子は首を横に振った。 「じゃあ、止めといたほうがいいですよ。吸えるようになっても、いいことないし。金と健康が失われるだけ」  冴子はムッとしたように、口を尖らせた。そういう表情もできるらしい。 「じゃあ、真田さんもやめればいいじゃない。こんなとこで、コソコソ吸って。高校生じゃあるまいし」  やはり、そう思われていたらしい。 「俺はもう無理。吸わないと、ストレスで死んじゃう」  そう言うと、冴子は急に真顔になった。  しばらく黙った後、ポツリと言った。 「じゃあ、やっぱり吸っとけばよかった」 「え?」 「わたしも死んじゃうわ」  俺はまじまじと冴子を見た。  俺はアキラじゃないから、見ただけで彼女がバケモノだとは分からないが、確かに冴子はロストアンガー施術を受けたバケモノだ。  バケモノは自殺出来ない。 「……なんか、悩みがあるんですか?」  何気ないふうを装って、そう訊ねてみる。  吹いた煙が景色に解けていった。  冴子はほんのり笑った。だけど、その目は凍っていた。変に歪んでしまった感情が、瞳に現れているような、凍り付いた目。  これがアキラの言う「バケモノの目」だろうか。 「悩みって言うか、罰ね。これから罰が下されるんです。罪は罰で贖わなければならないでしょう?」  罪と罰。 「罰って……」  言いかけたところで、店長が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 「あ、戻らなきゃね」  冴子に言われて、仕方なく俺も立ち上がった。  罰。  今から何が起こると言うのだろう?  俺の見ている前で、冴子は自分の腹を一瞬触った。  罰、という言葉に、俺は眩暈がした。
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