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「あら、真田さん、タバコ吸うんですね」
店の裏でこっそりタバコを吸っていると、急に声をかけられて、俺は反射的にタバコの火を消そうとした。
高校生か、俺は。
思いとどまって、顔を上げる。
「矢島さん。店長には黙っといてくださいよ」
そう懇願すると、冴子は「ふふっ」と笑って俺の横に座った。
「わたしにも下さい」
そう言って、手の平を差し出す。
俺は面食らって、「は?」と言ってしまった。思わず目が彼女の腹辺りを見てしまう。
「……吸ったことあるんですか?」
俺がそう訊ねると、冴子は首を横に振った。
「じゃあ、止めといたほうがいいですよ。吸えるようになっても、いいことないし。金と健康が失われるだけ」
冴子はムッとしたように、口を尖らせた。そういう表情もできるらしい。
「じゃあ、真田さんもやめればいいじゃない。こんなとこで、コソコソ吸って。高校生じゃあるまいし」
やはり、そう思われていたらしい。
「俺はもう無理。吸わないと、ストレスで死んじゃう」
そう言うと、冴子は急に真顔になった。
しばらく黙った後、ポツリと言った。
「じゃあ、やっぱり吸っとけばよかった」
「え?」
「わたしも死んじゃうわ」
俺はまじまじと冴子を見た。
俺はアキラじゃないから、見ただけで彼女がバケモノだとは分からないが、確かに冴子はロストアンガー施術を受けたバケモノだ。
バケモノは自殺出来ない。
「……なんか、悩みがあるんですか?」
何気ないふうを装って、そう訊ねてみる。
吹いた煙が景色に解けていった。
冴子はほんのり笑った。だけど、その目は凍っていた。変に歪んでしまった感情が、瞳に現れているような、凍り付いた目。
これがアキラの言う「バケモノの目」だろうか。
「悩みって言うか、罰ね。これから罰が下されるんです。罪は罰で贖わなければならないでしょう?」
罪と罰。
「罰って……」
言いかけたところで、店長が俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あ、戻らなきゃね」
冴子に言われて、仕方なく俺も立ち上がった。
罰。
今から何が起こると言うのだろう?
俺の見ている前で、冴子は自分の腹を一瞬触った。
罰、という言葉に、俺は眩暈がした。
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