4 罪

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「ピンポーン、よ」  ガブから電話がかかってきたのは、勤務が終わってバイクに跨ろうとした時だった。冴子は遅番で、今日は俺の方が上がりが早い。 「被害者の名前は市井(いちい)直樹。当時、野島紗英子が事務職として働いていた職場の、取引先の営業マンだったみたいよ」 「知り合いだったのか?」  俺が呼んだ記事では、接点のない男が一目ぼれしたふうな書き方だったが、少なくとも顔見知りだったわけだ。 「市井から好きになったのは本当みたい。でもそれだけで、ストーカーしてたわけじゃない」 「?」 「二人はいいところまでいってたらしいのね。実際に何度かデートしてる。付きあうまで行ったかどうか分からないけど、そう思っていた人もいたみたいよ。だからあの事件は、二人の周りの人たちを驚かせたみたい」 「……そうか」  答えはしたが、余計に分からなくなった。  紗英子にあんな凄惨な行動をさせたのは、一体何だったのだろう。  ここから先は、冴子本人か、市井に訊かないと分からないかもしれない。 「それとね」  ガブの声のトーンがさがったので、俺も身構える。 「なんだ?」 「最近、市井が闇サイトにアクセスした形跡があったの」 「闇サイト?」  不穏な言葉に、思わず声が尖る。 「依頼を受けて、代わりにターゲットを襲撃するってやつ」  急に辺りが暗くなってきた。  最近、陽が傾いたかと思ったら、暗くなるのが早い。気づいたら、真っ暗な夜になっている。 「それで、市井は依頼したのか」  息を詰めて訊くと、ガブは「ええ」と肯定した。 「複数人の男で野島紗英子を襲って欲しいって依頼してる。事件のことにも触れて、彼女のせいで、身体も人生もめちゃくちゃになった、復讐して欲しいって」  心臓がひとつ、ドクンと鳴った。だが、そこで抑える。 「それ、いつだ」 「先月の十日」  最初のノイズが出たころだ。  冴子の言う罰は、これのことか?  それではまだ、これからがあることになる。  ……これから罰が下されるんです。  冴子の言葉が、不吉な予言のように、頭の中で響いていた。
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