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「ピンポーン、よ」
ガブから電話がかかってきたのは、勤務が終わってバイクに跨ろうとした時だった。冴子は遅番で、今日は俺の方が上がりが早い。
「被害者の名前は市井直樹。当時、野島紗英子が事務職として働いていた職場の、取引先の営業マンだったみたいよ」
「知り合いだったのか?」
俺が呼んだ記事では、接点のない男が一目ぼれしたふうな書き方だったが、少なくとも顔見知りだったわけだ。
「市井から好きになったのは本当みたい。でもそれだけで、ストーカーしてたわけじゃない」
「?」
「二人はいいところまでいってたらしいのね。実際に何度かデートしてる。付きあうまで行ったかどうか分からないけど、そう思っていた人もいたみたいよ。だからあの事件は、二人の周りの人たちを驚かせたみたい」
「……そうか」
答えはしたが、余計に分からなくなった。
紗英子にあんな凄惨な行動をさせたのは、一体何だったのだろう。
ここから先は、冴子本人か、市井に訊かないと分からないかもしれない。
「それとね」
ガブの声のトーンがさがったので、俺も身構える。
「なんだ?」
「最近、市井が闇サイトにアクセスした形跡があったの」
「闇サイト?」
不穏な言葉に、思わず声が尖る。
「依頼を受けて、代わりにターゲットを襲撃するってやつ」
急に辺りが暗くなってきた。
最近、陽が傾いたかと思ったら、暗くなるのが早い。気づいたら、真っ暗な夜になっている。
「それで、市井は依頼したのか」
息を詰めて訊くと、ガブは「ええ」と肯定した。
「複数人の男で野島紗英子を襲って欲しいって依頼してる。事件のことにも触れて、彼女のせいで、身体も人生もめちゃくちゃになった、復讐して欲しいって」
心臓がひとつ、ドクンと鳴った。だが、そこで抑える。
「それ、いつだ」
「先月の十日」
最初のノイズが出たころだ。
冴子の言う罰は、これのことか?
それではまだ、これからがあることになる。
……これから罰が下されるんです。
冴子の言葉が、不吉な予言のように、頭の中で響いていた。
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