1 バケモノ

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「ノイズが出た。RC4022番。東京都」  なかよしマートの店長、白井がプリンターから吐き出された紙を睨んで言った。 「R番って、結構最近ですね」 「東京にいるって……地方から来たのかな」  もちろん、「なかよしマート」はスーパーマーケットではないし、白井店長も店を切り盛りしているわけではない。 「なかよしマート」は政府非公認のバケモノ対策組織である。  ロストアンガーを受けた者は、一生良い人としてつつがなく人生を終える。  ただ、たまに壊れる者がいる。原因は分からない。記憶は残るわけだから、罪の意識にさいなまれ、精神がやられてしまうとか、悲しみの感情は残っているので、その悲しみの行き所がなくなり心を患ってしまうとか、そもそも人間の感情をコントロールすることに無理があるとか、いろいろ言われているが、はっきりしたことは解明されていない。  とにかく、神経にノイズが発生し、果ては発狂してしまう者が、わずかだがいた。  ノイズはレベル1から始まり、レベル5になると発狂に至る。その発狂はクラッシュと呼ばれる。  クラッシュが自分に向かえば、本人の自殺で済むからまだいい。  問題は周りの破壊につながった場合だ。この場合、本人には怒りも動機もなく、悪意すらない。ただただ周りを破壊していく。悪意なき殺戮などと、最悪なことになる。  その場合は、抹殺対象となる。それをこの業界では、浄化という。  なぜそのノイズが分かるかというと、ロストアンガーを受けた者は、チップを埋められるからだ。  そして、これが俺に言わせれば、ロストアンガーの胡散臭いところだと思うが、チップを埋められることは、本人たちは知らない。  知っているのは、日本政府と、政府非公認と公認されている、俺たち「なかよしマート」の連中だけだ。 「野島紗英子、三十。ロストアンガーを受けたのは、五年前か」 「対象レベルは?」 「まだ観察」 「東京のどこ?」 「東京都、E区」  アキラがうんざりしたような声を出した。 「また、人の多いところで」  店長はアキラのぼやきを無視して、スマートフォンのような機器を俺に渡した。  画面には地図が表示され、光が一つピコピコと点滅している。画面右上には、ノイズレベル1の文字。ロストアンガー被施術者追跡装置、通称「バマホ」。埋め込まれたマイクロチップは発信機も兼ねている。俺たちは、この点滅が示す人物を探し出せばいい。  ただし情報はそれだけ。対象者の顔も体型も分からない。どんな犯罪を犯したのかも分からないし、その背景ももちろん分からない。  分かっているのは、名前と年齢といつバケモノになったか。それから、今いる場所。  名前を教えてもらえるのだから、どんな罪に問われたのかは、調べれば分かりそうだが、よほど有名な事件でもない限り、時間がかかりすぎる。それにそんなことは、俺たちには関係ない。  対象を見つけて、浄化対象となったら、浄化する。  俺たちに求められているのは、それだけだった。
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