2 冴子

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 ポケットの中でスマホが震え、俺は我に返った。慌てて、図書館の外に出て、電話に出る。 「あ、マルさん?何してんですか、もう夕方ですよ。今から店に入りますからね」  時計を見ると、午後四時。 「悪い。すぐ行く」  短くそう言うと、アキラは珍しく「いいですよー」と答えが返ってきた。昼寝が足りて、機嫌がいいらしい。 「入っときますね」  アキラがそう言って、電話が切れる。俺は席に戻り、広げていた新聞を片付けると、カバンを担いで図書館を出た。  速足で歩きながら、バマホを取り出す。点滅を確認して、安心する。まだ店にいるようだ。それからレベルの表示に目を移して、ギクリとした。「レベル2」初期警戒だ。  アキラに電話をかけようと思ったが、思いとどまった。もう、店の中にいるかもしれない。  店の前に着くと、アキラの姿はなかった。  足の速度を落とし、上がりかけていた息を整えると、ゆっくり店の自動ドアをくぐった。  狭い店内は背の高い棚が、迷路のように張り巡らされていた。俺はDVDを吟味するふりをして、ゆっくり通路を回っていった。アキラの姿も、野島紗英子の姿もない。  ぐるりと回って、棚の迷路を抜けると、レジのところで小柄なアキラの姿を発見した。ほっとして、何をしているのかと改めて視線を上げると、そこには野島紗英子がいた。アキラは、あろうことか紗英子本人としゃべっている。土手で立ち尽くしていた時とは、まったく印象が違っていたので、すぐには気が付かなかったのだ。明るい笑顔をアキラに向け、応対している。  俺は苦労して自然に視線を通過させると、近くの棚に視線を移した。そこにあったDVDのケースを手に取り、裏返してみたりする。  少しして、俺は目当てのものがなかった客のふりをして、店の外に出た。ほどなくして、アキラも外に出てきた。  俺は道路の反対側にあったファミレスを、顎で示した。
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