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突然の頼みに少し驚いた様子だったが特に理由を聞くことはなく智也は家に招き入れてくれた。俺は落ち込んでいるんだろうか、亮介と恭弥が周囲の人間からお似合いだと言われて。そんなものは今まで一番気にしないと思っていたことなのに。
「亮介クンには連絡入れとけよ」
「さっき入れたから大丈夫」
「・・・ならいいけど」
智也は亮介の話題が地雷だと思ったのかそれ以降亮介の名前は出さなかった。
客人用の簡易ベッドを出してきた智也は俺にベッドを使うようにいって、自分はその出してきた客人用のベッドに俺の隣で横になった。ベッドとは言うものの簡易なそれは薄く、突然押し掛けた自分が智也のベッドを使うのは申し訳ない。そうごねるも俺明日一限だから細かいことごちゃごちゃ言うなと一蹴された。すぐに隣で寝息を立て始めた智也に俺もベッドに横になる。目をつむってもなかなか寝付けなかった。亮介はもう眠っただろうか。ご飯はちゃんと食べただろうか。
せめて何か作ってやってからここにこればよかったかな。ご飯は一緒に食べよう、そう約束したのは同居を始めてすぐ。あれからどんなに部活が忙しくても亮介はいつもその約束を守ってくれた。だから俺はいつもご飯を作って亮介を出迎えた。美味しいと笑ってくれるだけで十分だった。
ふと昼間の光景を思い出す。
亮介は恭弥の弁当を食べたんだろうか。いつしか俺の弁当はもういらないといわれる日がくるのだろうか。俺ではなく恭弥を取る日が来るのだろうか。
そしてその日は俺が思うよりずっとすぐ近くまで迫っているのかもしれない。
くっと唇をかむ。キスをしなくなったのは高校の頃から。深いキスを求めていたわけじゃない、戯れるような軽いキスを挨拶のように毎日繰り返していた。けれど高校の頃から亮介はそれを拒絶するようになった。亮介の変化に気づかないわけがなかった。けれど理由を聞きたくはなかった。だから、次第にキスはしなくなった。
触れたい、キスしたい。でも拒絶されるのは嫌だ。自身の体を抱きしめるように体を丸める。体が熱い。亮介のことを考えていたせいだろうか。最近ストレスで抜いてなかったし、欲求不満か、なんて。思い込もうとしてもどうしようもないと気づく。どうしようもないほどの渇き下腹部の熱、火照る体、しびれる手足、早まる呼吸。
どうして初めてがこのタイミングなんだろう、絶望する。
「…要?」
智也が俺の様子を察してか目を覚ました。暗闇の中目が合った、そう確信する。
発情期のΩのフェロモンはβをも誘惑する。「あ・・・」声はかすれ、恐怖に震える。涙がこぼれた。
→《第二章》へ続く
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