《第二章》

3/9
前へ
/44ページ
次へ
>「今日は友達の家に泊まる」 >「夕飯は適当に食べて」   要から連絡があったのは昼頃。俺はその通知に落胆した。   家に帰っても誰もいないいつもより静かな部屋は居心地が悪いくらいに広く感じた。帰りに買ったコンビニ弁当を食べながら、気を紛らわすようにテレビをつけて、左腕でダンベルを持ち上げる。味気ないと感じるのは要が作ったものではないからなのか、要がいないからなのか。それでも腹に入れてしまえば同じだと何とか思い直して俺は弁当を食べきる。   ここ最近浮かない顔をしていた。それでも尋ねようと口を開けば逃げるように俺から目をそらすからそれ以上何も聞けなくなった。   鏡の前に立つ。「ぶっきらぼうでつまらなそうな顔」、そう昔からよく言われる。笑ってるつもりなのに、うまく表情が作れない。それでいて口下手な俺は表情でも言葉でも自分を出すことができない。そんな自分が大嫌いだった。伝えたい言葉があるのにどうしたって言葉にならない。から回ってばかり。そんな俺を昔から両親は少し困ったように見ていた。 「初めまして、尾崎 要です」   そんな頃、婚約者だと紹介された同い年の少年要に出会った。俺の両親が少しでも俺の口下手と人見知りが改善するように引き合わせたのかもしれない。そう自己紹介をしてにこにこと楽しそうに笑う要に案の定俺はうつむいて何も喋れずにいた。両親は「すみません、人見知りなもので」と申し訳なさそうに要の両親に謝るのを聞いて無性に悲しくなった。   きっと彼も自分を「つまらない」と言って離れていくのだろう。今までの同年代の友達はみんなそうだったから。そしてまた両親を悲しませることになるのだ。話さなければと思えば思うほど、焦れば焦るほど頭が真っ白になっていく。 「亮介って呼んでもいい?」 「・・・え?」   そんな俺の手を突然強引にとって握手をするようにぶんぶんと振る要に思わず驚いて顔をあげると、そこには屈託ない笑顔を浮かべる要がいた。 「いいよ、無理に喋んなくても。その分俺が喋るからさ」   いつも喋りすぎでうるさいって怒られるんだ、そういって笑みを深めた要は心底嬉しそうに楽しそうに俺を見ている。 「よろしく、亮介」   その笑顔にどれだけの勇気と安堵を得ただろう。その笑顔にどれだけ救われてきたかわからない。——紛れもない俺の初恋、一目ぼれだった。 気づけばソファーで眠ってしまっていたらしい。   ポンっとやけに大きく通知音が部屋に響いて俺はスマホを手繰り寄せる。時刻は23時を回った頃。要からの通知だった。 寝ぼけ眼で文面をぼんやりと見つめ直後、文面を理解して飛び起きる。続けざまに要の現在地を表示した地図が送られてくる。   俺は家を飛び出した。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

351人が本棚に入れています
本棚に追加