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近づいてくる智也からベッドの上で距離を取る。壁に背中がついて、もう逃げられないことを知りせめてと布団を手繰り寄せた。自身の荒い息が部屋に響く。涙がこぼれたのは発情期への恐怖と不安、同時に智也への疑念とその罪悪感。
手を伸ばされてぎゅっと目をつむった。
「安心して要。俺もΩだから」
忘れていた呼吸を取り戻すように息を吐いた。確かに智也がヒートにあてられた様子はない。あまりの安堵にますます涙がこぼれた。
「驚かせて悪い」
気持ちを落ち着かせるように隣に座った雅人は慰めるように俺の背をなでる。俺はこくこくとうなずいて鼻をすすった。
「亮介クン呼ぶから、スマホの暗証番号教えて」
「・・・亮介を呼ぶの?」
少し落ち着いてくると智也は俺のスマホを手に取ると言った。
「そりゃ、発情期に婚約者呼ばないわけにもいかないだろ」
「いや、いやだ・・・呼ばないで」
ぶんぶんと頭を振って叫ぶ。会いたくない。どんな顔をして会えばいいのかわからない。
キスも嫌がる亮介に発情期の世話なんてさせたくない。こんなあさましい姿を見られたくない。
きっとそれでも亮介は優しいから俺の相手をするだろう。ただの仮初の関係に縛られて。
「要」
智也らしからぬ大きな声が俺を正気に返すように俺の名を呼んだ。そしてなだめるように言い聞かせるように続ける。
「俺は亮介クンのこと全然知らない。けど要が惚れた男だろ」
まっすぐに向けられた目から目が離せない。
「信じてやれよ」
うん、そううなずいた。俺が四桁の数字を言うと手早くそれを打ち込んで智也が亮介へと連絡をいれる。
「体、熱い」
「我慢しろ、すぐ既読ついた、すぐ来てくれる」
「怖いよ・・・」
「大丈夫、大丈夫だから」そう幼子に言い聞かせるように、智也はそう繰り返し俺の体を抱きしめた。
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