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この世界には男女の性差の他にもう一つα、β、Ωと呼ばれる性差が存在する。
社会の成功者とよばれる8割をαが占め崇拝される一方で、最も卑下される存在Ωは成熟すると3か月に一度の発情期に苦しめられる。その期間Ωはよりよい種を求め、フェロモンを分泌しαやβを誘う。当然その期間中、Ωはほかのことが手につかない。
Ωの差別は一昔前よりかは幾分かなくなってきてはいるものの、Ωが社会進出をすることがいかに困難であるかは想像に難くない。そもそもΩである者を雇う企業が少ないのだ。雇ってもらえたとしても他よりも少ない給料あるいは労働環境の悪い場所であることがほぼ大半だ。
だからこそΩがこの世界を生き抜く最良の手は、パートナーを見つけるしかない。
その相手がαであれば尚良い。α側もΩを求める十分な理由がある。
αとβでも、Ωとβでも、β同士でも、性差が違えば子供は産める。(Ωだけは性差に関わらず男でも妊娠は可能である)。しかしΩからしかαの子供が産まれることはない。α同士での妊娠の可能性はほぼ無く、さらに遺伝子の関係からかα同士が惹かれあうことはめったにない。そしてαとβあるいはβとΩとの間にはほぼ間違いなくβしか生まれない。αとΩとの間に唯一α、あるいはΩの子が生まれてくる。
諸説あるがβの遺伝子が一番強いため、αやΩの遺伝子を打ち消してしまうというのが有力な説である。βと比べてαとΩの人口が圧倒的に少ないことは言うまでもない。
さらにαとΩの間では番契約を結ぶことができる。αが成熟したΩのうなじを噛むことによって成立するそれは、Ωの発情期中のフェロモンを番相手のαのみに限定することができる。しかし、一度番となった両者が簡単にその関係を解消することはできない。特にΩ側は番以外との性行為に拒絶反応が生じるようになるため、一方的なαの契約破棄は重い契約違反としてΩ側に多大な慰謝料が請求される。そのため現在αとΩ同士で結婚しているものはいても番契約をしている者はほとんどいない。
αの出生率は年々減少傾向にある現在、αとΩの婚約は推奨されている。αとΩに絞った婚活パーティさえあるくらいだ。生まれた時から家同士がαとΩの子供を婚約者としてたてることなど大して珍しい話でもない。
Ωである尾崎 要とαである橘 亮介が婚約者として今日まで過ごしてきたのはこういった背景がある。
彼らの関係は端から見れば良好にみえた。けれどその実際がどうであるかは彼らのみ知ることだ。
→《第一章》へ続く
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