《第一章》

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チャイムが鳴り扉を開けると目の前には俺より頭一つ分小さな位置につむじが見えた。俺が覚えのない客人に疑問を抱くように、目の前の彼もまた俺に同様の視線をしばらく向けた。   俺に覚えがないということはつまり、彼は俺の同居人兼婚約者である亮介の知り合いであることに思い当る。しかし目の前の男が後生大事そうに両手で抱きかかえているものに思わず眉を寄せる。おそらくそれは亮介のシャツ。 「どちらさま?」   どうして君が亮介のシャツを持ってるの、どういう関係なの、聞きたいことは山ほどあった。しかし早とちりかもしれない。慎重に話を進めようと努める。もしかしたら亮介の部活の友人で忘れ物を届けに来たのかもしれない。ちらりと彼を見て自分の思考を鼻で笑う。亮介と同じ「柔道部」であるとは到底思えないが。   しばらく固まっていた彼も俺の存在に思い当るところがあったらしい。俺の顔をまじまじと見あげると、勝ち誇ったように笑った。 「先輩に婚約者がいるとは聞いてたけどまさかこのレベルとか笑っちゃうね」 「どういう意味だよ」   明らかな敵意にむっとして言い返せば「そのままの意味だけど」といけしゃあしゃあと彼は答える。拍子抜けだと言いたげに肩をすくめ大げさにため息をつく男は確かに俺よりずっと美形だ。可愛らしい、誰がみてもそう答えるだろう造形。対して俺は特に印象のないまさに平凡顔。 別に自分の容姿にコンプレックスを感じているわけではないが、誰が評価しても10人中10人が俺より目の前の男の容姿を評価することは確かだ。 「亮介先輩のシャツを返しに来たんだ、渡しておいてくれる?」   はい、と手渡されたシャツと目の前の彼を二度視線で往復したのち、満を持して口を開く。 「なんで亮介のシャツ持ってんの?亮介の部活の後輩?」 「僕?僕は山口(ヤマグチ) 恭弥(キョウヤ)。君と同じΩなんだよね」   これだけ言えば僕が言いたいことわかるでしょ、その言葉に嫌な汗が伝う。 「じゃあ、先輩によろしく」   彼はそれだけ言って去っていった。俺はその後しばらく呆然とその場に立ち尽くした。
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