《第一章》

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「帰りたくないな・・・」   どんよりとした鉛色の空を見上げてぽつりとつぶやく。 ―—「先輩、僕お弁当作ってきたんですけど一緒に食べませんか」   聞き覚えのある声が校舎に響く。思わず振り返れば噂の一年恭弥が亮介と並んで楽しそうに歩いている。 「Ωなんだろ、あの一年」 「へえ、道理で。俺Ωとか初めて見たかも。やっぱ違うもんだよなあ」 近くにいた二人組の男たちは見惚れるように恭弥を目で追う。彼らが言うように基本Ωの容姿は秀でているものが多い。αを誘うために秀でたある意味才能だともいわれるが、当然皆が皆そうではない。俺のような例外も当然いる。そもそも成功者の隣に並ぶΩがみな容姿端麗なものが多いためそういう偏見があるのも事実だ。 「ちなみに隣のがたいのいい男」 「橘 亮介だろ。柔道部の県大会で何度か優勝してるしわりと有名だろ」 「αなんだってよ」 そりゃそうだよなあ、まあ大体才能のあるやつはαだよなあ、なんて笑う二人の会話に腹が立つ。亮介がどれだけの努力をしているのかなんて知りもしないくせに。努力はいつだってαゆえの才能だと切り捨てられる。どんな雑誌の記事もテレビもその周囲も亮介の努力なんて興味はない。結果とαという性を結び付けて、勝手に期待して勝手に納得する。   そんな勝手な周囲にいちいち腹を立てていてはきりがないと分かっている。だから俺は何も言わず二人を追い抜いた。 「でもまあなんだかんだ普通にお似合いだよな」 「わかる、しっくりくるっていうかなんていうか。まさにαとΩってかんじ」   ああ、最近気が立つことばかりだ。けれどその気持ちを向ける場所がない。自分が我慢すればいい話だと分かっているのに心がざわつく。時々無性に不安と悲しみに泣きそうになる。   俺は重い足取りで大学を出る。亮介と住む下宿先へと足を向けたがすぐに足を止める。かばんからスマホを取り出しメッセージを送った。
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