さよなら

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もう二度と会うことはないと思っていた母親に 会っておこうと思った。 元々ロクな人生を歩んでこなかった俺。 母親の事も正直ハズレくじを引いたと思っていた。 多分向こうもそう思っていたと思う。 俺は可愛くない子供だったし、母親は人の親になる事自体が向いていないような人だった。 俺は何度も警察のお世話になったけど、 その都度迎えに来てくれたのは学校の担任だった。 哀れな母子家庭の子。 そう思われるのが嫌で余計に荒れた。 15の時に家を出て、それから一切連絡も取っていなかった。 けれど。 さっき俺は人を殺してしまったから。 きっと懲役になって、 そうするともう何年も出てこれなくて、 中に入って母親の顔を見ておけばよかったと後悔する事もあるかもな、 と思ったのだ。 実家の最寄り駅は昔と変わらず古ぼけたまま。 夕焼けが照らす街並みを見ると、あの頃の自分を嫌でも思い出す。 駅前のロータリーから路地に入ると駅前なのに暗くて、 よくここでカツアゲしたなと思う。 もう母親はここには住んでいないかもしれない。 そうは思ったがほかに手掛かりもないので昔住んだ家に向かう。 ボロボロのそのアパートはもうなくなっていて、 ああ、やっぱり会えないのかなあと思った。 すると、もうすぐ開店なのかすぐ近くの居酒屋から女将らしき人が暖簾をもって出てきた。 母だった。 こんな偶然あるんだなあと思った。 声をかけようとして、声が出なかった。
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