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「お疲れ様でした、交代します。」
部屋の角に置かれた椅子の上で半分眠りこけている老人にそっと声を掛けた。
「あ、高橋さん。お疲れ様です。」
慌てて立ち上がろうとする彼に僕は唇に人差し指をあてて制止した。
今回の展示は年代問わず人気の高い印象派の画家達の作品。土日祝日はわんさか客が押し寄せてわいわいと賑やかだ。
平日は客数こそ落ちるものの目の肥えた美術好きが毎日のように訪れる。そしてこれは偏見と言えば偏見だけど……彼らははかなりの割合で音に神経質だ。咳一つしただけで一斉に非難の視線が飛んでくる。
「またおいでですよ、あのご婦人。」
老人が軽く視線を流す。その仕草で見ずともわかる。
「展覧会初日からずっと、ですね。」
顔を見合せ軽く頷きあう。
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