「あっ!」

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「あっ!」  と私が叫ぶようになったのは、1週間前のこと。  家に宿題を忘れて、学校に着いてそれに気づいたときからだ。  このままだと数学の田口に怒られると頭を抱えようとしたところ、目の前が暗転し、気付くとそこは自宅の私の部屋だった。  最初は訳が分からなかったけど、ジリリリと鳴り響く目覚まし時計がさす時刻は起床した朝の6:30。私はパジャマ姿で、自室のベッドに寝転んでいた。  ──そう、私はタイムリープしていたのだ。  その日は無事に宿題を持って登校し、数学の田口に怒られることはなかった。  訝しんだのも最初だけ。それ以来、何か良くないことが起こると私は「あっ!」と叫んだ。  「あっ!」と叫べば、次の瞬間に目の前が暗転し、目を開けるとそこは自室のベッドの上。鳴り響く目覚まし時計はうるさかったけど、良くないことが起こった日の朝、起床したときに戻れるから、まぁ、良しとしよう。  抜き打ちテストがあったとき、バイトでミスをしたとき、友人の真美との約束を忘れたとき。  「あっ!」と叫べば途端にそこはベルの音が鳴る自宅のベッド。私は失敗することがなくなっていた。  そして今日は数学の中間テストの日。  正直全然自信がなかったけど、私は叫べば朝目が覚めたときに戻れるから問題ない。テストが始まって、テストの問題を見てから戻れば対策が取れる。だから私は叫んだ。  「あっ!」  と。すると──  「おい中田! 試験中だぞ! なにでかい声出してんだ!」  「……あ?」  目を開けるとそこは教室の私の机。自室に戻れず私は試験官に怒られて、クラスメートに笑われた。  それ以来、「あっ!」と叫んでも自室のベッドに戻ることはなくなったけど、たまに戻れるんじゃないかと思うときがある。  そんなとき、私は人気のないところで周囲を確認する。そして、私は叫ぶんだ。  「あっ!」 と。  ジリリリ! 【完】
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