プロローグ

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私は自分のことが嫌いだ。 きっとみんなそうだと思う。臆病だったり、短気だったり、誰でも欠点を持っている。 そんな欠点が、自分にも人からも嫌われる要素なのだろう。 時にはその欠点ひとつひとつを含めて、その全てこそが自分自身であり、愛すべきであるという人もいる。 けれどそれは、自分に嘘をついているのとそう変わりは無いのだろうと私は思う。 人は普段から嘘を吐き、人を騙し、軈てその嘘に自分自身も騙されていく。 誰もが自分自身を愛する世の中なんて、きっと絵空事のような世界なのだと、私は思う。 でも、あの人は言っていた。 「自分の良い所をただ好きであり、欠点はただ嫌いなままでいいんじゃない」 クスリと笑うその顔は今まで見た何よりも特別綺麗で、幼い頃の記憶でも目を閉じればその光景が浮かび上がるほど、私の目に焼き付いている。 「それに、いつまでも自分のことが少しも好きじゃないと、人のことを好きになるなんて、無理だと思うの」 小さな私の長さのバラバラに切られた髪を撫でながら、あの人は続けた。 「私はあなたのことが大好きで、色んな人のことも好きでありたいの。だから、私は自分のことも大好きなのよ」 なんて優しい人なのだろうと思った。 「でも私はあなたのこと、好きでありたいけど、自分のこと、とても好きになれないよ」 可愛くない子供だった。人を好きになることに助けを求めていたのだから。 「きっとあなたにも分かる時が来る。その時まで私があなたの分まで好きでいてあげるわ」 その時、いつもよりも少し寂しそうに微笑んだあの人の顔を、私は忘れることなんて出来ないだろう。 別に忘れたいわけじゃない。ただ、あの笑顔を思い出す度、胸が張り裂けそうなくらい、締めつけられる。ならいっそ、忘れてしまえた方が楽なのかもしれない、と思っただけだ。 胸が締めつけられるのは、私があの人に対して裏切りという名の罪悪感を抱えているからだろうか。ここでいう裏切りとは、目に見えるような最も悪質で、簡単なものでは無い。 ただ、ふと感じた違和感をずっと心の奥底に秘めていて、どうしたらこの違和感が消えてなくなってくれるのだろうと、いつも思う。 その違和感をあの人に訴えれば、あの人はきっと心を傷める。 あの人がいつまでも好きでいてくれて、胸を張って、自分のこともあの人のことも、好きだと言えるような人になりたい。 だから、この違和感はずっと心の奥底で眠っていることが最良なのだろう。 若しくは、外に出る前にその違和感を消して、私が全てを飲み込む。 けれど、それはあの人が好きな私ではない。 そんな大変迷惑な違和感と、ヒーローに憧れたあの日から、戦っている。 _もう敗北の証明は済んでいるのに。
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