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1、まずは、本を読みましょう。 Act.01
1、まずは、本を読みましょう。
ボクは、山の向こうに見える空を見ている。
山の向こうから見える空が黄色く見えている。
黄砂。砂が空を、まるで海の中を漂う植物性プランクトンのように、フワフワと舞っている。海の向こう、遥か中国大陸の砂漠から、風で煽られて海を越えてはるばるやって来る、とボクは聞いた事がある。
その砂が黄色いから黄砂。
やがてそれは地面に、ゆらりゆらりと、ふわふわと、漂うように落ちて、いや、降りてくる。それは停まっている自動車やそそり立つ建物に、雪みたいに降りてきて淡い黄色に染めていくんだ。
動かずにいるものは、砂に埋もれていく。少しずつ、少しずつ。ほんの僅かだけど、少しずつ積もっていくのだ。
そう、動かず、いや動けずにいる奴は全て、黄色い砂に埋もれてしまう。始めは少しかかる程度なんだけど、やがては黄色い砂に埋もれて、そのまま動けなくなるのだボクみたいに。ウジウジしている奴みたいに。
黄色い砂にかかった空を、ボクは見上げる。
空に、まるで筆でスッ、と引いたみたいに筋が走っていた。それは、色とりどりの鮮やかな原色の絵具が付いていたかのように、カラフルな筋が引かれていた。時には曲線や円を描いていた。
でも僕には見えた。
その鮮やかな色の筋で出来た絵画は、実は、鮮やかな紅い血の色だということ。バックの黄色い青空が、実はダークな黒灰色に沈んでいたということ。
紅い鮮血は誰のか。誰、というより特定の人というべきか。
一つの『運命」に導かれた者達なんだから。
——それは、魔法少女。
「魔法少女』という運命に苛まれた女の子達の鮮血によって、ダークな空に紅色を付けていく。
ボクは、何も出来ないまま空を見ていた。
出来る事なら、助けたかった。でもボクは暗い空を地面から、見上げるしか無かった。
でも、僕には手が届かない。
魔法少女達の戦いに、常人には手が出せない。
でもボクは、この戦いを止めたかった。
何故なら、僕も彼女達の戦いに導いてしまった一人だったから。
戦いを終わらせたかった……。
その向こう、遠くの山から見える黒い影。
影だから分かりにくいんだけど、建物の向こうにあると言えば良いのか。山より手前にあるからそう見えるだけだ。
高い、高い、塔。
『きぼうのとう』。
この街の向こうにそれはそびえ立っていた。
その塔のてっぺん。三角屋根の塔の一番高い所に窓がある。
誰かいる。
黒い影でしかその塔は見えないのに、誰かが塔から街を見下ろしているような、気がする。
塔を見ているだけで何にも出来ないボクを、この街を、塔の中から誰かが見ている。
静かなこの街を見ているんだ——。
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