1、まずは、本を読みましょう。 Act.01

1/1
前へ
/1039ページ
次へ

1、まずは、本を読みましょう。 Act.01

 1、まずは、本を読みましょう。  ボクは、山の向こうに見える空を見ている。  山の向こうから見える空が黄色く見えている。  黄砂。砂が空を、まるで海の中を漂う植物性プランクトンのように、フワフワと舞っている。海の向こう、遥か中国大陸の砂漠から、風で煽られて海を越えてはるばるやって来る、とボクは聞いた事がある。  その砂が黄色いから黄砂。  やがてそれは地面に、ゆらりゆらりと、ふわふわと、漂うように落ちて、いや、降りてくる。それは停まっている自動車やそそり立つ建物に、雪みたいに降りてきて淡い黄色に染めていくんだ。  動かずにいるものは、砂に埋もれていく。少しずつ、少しずつ。ほんの僅かだけど、少しずつ積もっていくのだ。  そう、動かず、いや動けずにいる奴は全て、黄色い砂に埋もれてしまう。始めは少しかかる程度なんだけど、やがては黄色い砂に埋もれて、そのまま動けなくなるのだボクみたいに。ウジウジしている奴みたいに。  黄色い砂にかかった空を、ボクは見上げる。  空に、まるで筆でスッ、と引いたみたいに筋が走っていた。それは、色とりどりの鮮やかな原色の絵具が付いていたかのように、カラフルな筋が引かれていた。時には曲線や円を描いていた。  でも僕には見えた。  その鮮やかな色の筋で出来た絵画は、実は、鮮やかな紅い血の色だということ。バックの黄色い青空が、実はダークな黒灰色に沈んでいたということ。  紅い鮮血は誰のか。誰、というより特定の人というべきか。  一つの『運命」に導かれた者達なんだから。 ——それは、魔法少女。 「魔法少女』という運命に苛まれた女の子達の鮮血によって、ダークな空に紅色を付けていく。  ボクは、何も出来ないまま空を見ていた。  出来る事なら、助けたかった。でもボクは暗い空を地面から、見上げるしか無かった。  でも、僕には手が届かない。  魔法少女達の戦いに、常人には手が出せない。  でもボクは、この戦いを止めたかった。  何故なら、僕も彼女達の戦いに導いてしまった一人だったから。  戦いを終わらせたかった……。     その向こう、遠くの山から見える黒い影。  影だから分かりにくいんだけど、建物の向こうにあると言えば良いのか。山より手前にあるからそう見えるだけだ。  高い、高い、塔。 『きぼうのとう』。  この街の向こうにそれはそびえ立っていた。  その塔のてっぺん。三角屋根の塔の一番高い所に窓がある。  誰かいる。  黒い影でしかその塔は見えないのに、誰かが塔から街を見下ろしているような、気がする。  塔を見ているだけで何にも出来ないボクを、この街を、塔の中から誰かが見ている。  静かなこの街を見ているんだ——。
/1039ページ

最初のコメントを投稿しよう!

317人が本棚に入れています
本棚に追加