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1、まずは、本を読みましょう。 Act.02
……思わず、昨夜見た夢を思い出してしまった。
変な夢だったなぁ。妙に覚えている。リアルだった。
夢ってのは大概が、目が覚めてた後は、インパクトがあったのは除いて忘れてしまうものだ。
「正夢」なんて、忘れてしまうから夢なのだ。
それなのに、ただこの街を見てるだけの夢を覚えているなんて、正夢なんかじゃないだろうなぁと思う。
やべぇ、しまった。
寝てしまっていたようだ。仕事中に。見つからなくて良かった。
急に現実に戻されたような気分。これも現実逃避なのかと思ってしまう。
目の前に見えるのは、書籍と雑誌が塔みたいになっていた。高さの違う塔というよりビルが、高さを競っているみたいだった。
全くもう、ウンザリしてくる。
ここにあるもの、売場から下げられた返品の山。
返品のリミットで下げられたもの、売れなかったもの、キャンペーン期間を過ぎたもの、注文キャンセルのもの、汚れたもの、落丁本、……キリが無い。本屋の掃き溜めと言ってもいいかな。
事前に聞いてはいたが、ここの所大学の勉強の方が忙しくてアルバイトに行きたくても行けなかったのが正直な感想だった。
月明けだから、月刊誌の返品が多いとは聞いていたけどね。
でも、この返品の量は多過ぎやしないか。大学生のアルバイト風情でもさすがに分かる。
ボクがこの書店でのバイト仕事での店長からの希望は、月明けの日祝日の遅番、閉店までの仕事をして欲しい、との事だった。ボクもその時間帯の方が時給がいいので、快く受けた。改めてこの量を見て成る程、と思う。
この状況は最初の月明け仕事からあったので慣れてきた。それでも最初は受けるんじゃなかった、と思っていた。
それでも、店長から聞いた話だと、二、三十年前に比べたら減ってきているそうだ。
当時は、手間が掛かって大変だったらしい。今みたいにバーコードさえスキャンしてしまえばOKでは無く、取次、書店から見れば問屋みたいな所と言えば良いのか、取次が専用の返品伝票を手で書いて、雑誌コードや書籍名、冊数、売価と入れて、更に原価を電卓を叩いて合計。全部手書きだったらしい。
「俺が知っている小さな取次なんか、スゴイぞ、電卓じゃなくて、算盤でパチパチやって棚卸ししてたんだ。よく大きな書店で棚卸しの応援に行ってたけど、ある意味新鮮だったなぁ」
店長がこの書店に来る前に出版社の営業をやっていた時の話らしい。算盤って小学校の頃しかやって無いぞ。
ボクも本を読むのは好きだけど、現代の文明バンザイ、文明の利器バンザイな方なので、今更手書きやらいちいち計算機を叩いて……なんてどうかと思ったりもする。第一、書籍名を書く者の身になってくれと思う。例えばこれ、って一冊本を取り出す。
『〇〇先生の、ストレッチ体操で健康になった……以下略』。
長い名前の書籍名なんて大変だ。小説の題名、ラノベなんかそうだけど、末尾だけしか違わない題名というのも、結構書店泣かせじゃないか、と思う。
後で聞いた話では、実質現場では、そんな題名なんか書かずに出版社名を書くだけだったとか。しかも違う題名でも値段さえ同じならば、出版社名でまとめてしまっていたらしい。伝票には、項目で書籍名と明記されていても、構わず出版社名で書いてしまってた。
……やれやれ。仕事に入れず現実逃避していたみたいだ。
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