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1、まずは、本を読みましょう。Act.03
ボク、庄路ダイキは手に取っていた実用書の裏にあるバーコードをスキャンして、ピッと音を立てて入力した。
信じられない。返品の冊数が減ってきているなんて。
何が出版不況だよ、デジタルで自由に手に入ってしまうから、紙媒体が売れなくなっただけじゃねえか、と言いたくなる。
ボクは書店の奥にある倉庫で、返品の本の山と格闘中だった。夏なのにエアコンも効きが悪く、Tシャツ姿で。
「おう、ダイキ、済まんね」
声がかかってきた。店長だ。声の方を向く。
「店長〜、これ、月明けから溜め込んでたでしょう。ちょっとこれは多いですよ」
「すまんすまん。この前の高校生男子、いきなりやめちゃったんだ。出来る範囲で良いからさ、頼むよ」
全く、簡単に辞めんなよ若い子がって、そう年は違わないのに。心の中で愚痴をこぼす。
あ、そうだ。ボクは店長を呼び止めた。
「店長、この本どうしましょうか。この出版社のって、確か返すのに連絡入れなきゃいけないんですよね」
ボクは、手元に置いてある本に手を置いた。他の本の山に比べてそこだけ綺麗に積まれていた。売場に出さずそのまま返品。
出版社によっては、「条件付き返品」というものがあって、わざわざ出版社に連絡を入れて、返品承諾を貰わないといけない所もある。あまり聞かない名前の出版社だとその可能性もなくは無い。といっても、いちいち連絡して了承を貰うというのもどうなんだろうかと、アルバイト風情のボクも考えないでも無かった。
「ああいいよ。担当者了承済みにしておけば。ええと……」
店長はメモを書いてボクに渡した。忙しかったの、そのまま売場の方に向かっていく。
ボクは店長に貰ったメモを見た。なんだかありきたりな名前が書いてあった。ボクはそのメモに出版社名を書いて、壁に貼っておいた。そこまで返品が多過ぎるから追いつかない。
あ、そうだと店長の声。バックヤードから売場に出る扉から店長がボクを見ていた。
「ごめん、あと一時間ちょっとで売場に出てこれる? 返品は出来る所まででいいからさ」
「え、良いんですか? 明日は大学の講義でいないですよ。閉店までにやれば何とか半分くらいは…」
「いいよ、いい。それよりも、今晩は香崎さんが来れるんじゃないか? 返品作業は、夜になったらお客さんが少なくなったらでいいから。テキトーに切上げりゃいいよ」
引き合いにヒナタの名前出すかぁ、フツーそこで。ボクの彼女の名前を。精神的に赤くなってしまった。
「言ってるだろ?昔に比べりゃ楽になったって。はい、時間がないぞ! 口より手を動かす!」
あ、はい! 急き立てられてボクは作業に戻った。
店長も売場に戻った。扉が前後に揺れていた。
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