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僕がその女の子に出会ったのは、学校の帰り道のことだった。
中学に入学したばかりだった僕は、同じ小学校出身の人が少なかったこともあり、なかなか友達ができなかった。その日も、いつまで経っても着慣れない制服を窮屈に感じながら、一人でうなだれるようにして歩いていた。学校のことで頭がいっぱいだった僕は、自分が話しかけられていることにも気がつかなかった。
「……ん。……ちゃん。お兄ちゃん」
「……うわっ?」
いきなり制服のブレザーの裾を掴まれた僕は、とび上がるほど驚いた。心臓をバクバクさせながら目を向けると、女の子が自分を見上げていた。七歳くらいで、髪の毛を二つに結んでいる。くりっとした目が印象的だ。
「お兄ちゃん、元気ないの?」
女の子は少し首を傾げながら聞いてくる。
「えっと……まあ、うん……」
状況をいまいち飲み込めず、戸惑いながら僕が答えると、女の子はにっこりと笑った。
「じゃあ、わたしの部屋を見せてあげる!たからものがたくさんあるの」
そう言うと、女の子は僕をぐいぐいと引っ張り始めた。どうやら僕を自分の部屋に連れて行って、元気づけようとしているらしい。なんとなく小さな子どもの手を振り払うのは躊躇われる。しかし、
「……ここ、どう見ても空き家だよなぁ……」
僕は力なく引っ張られながら、まさに連れ込まれようとしている家を見て呟いた。
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