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「……よぉ、『彼女』か。済まんな。ダメだったよ、今回もな……」
デンジがスピーカーの上にチョンと置かれた小さなCCDカメラに向かい、申し訳無さげに小さく頭を下げる。
《仕方ありません。こちらとしても、やれる事には限度がありますし。表立って動くには、あなた方の力を借りる他ありませんので》
スピーカーから流れてくる声は淡々としている。
だが、何処かやはり落胆の色が滲むのを隠せてはいなかった。
デンジ達の活動に陰から資金や資材を提供してくれる『彼女』は、自分の正式な名前な身分を明かした事がない。だが、その言動や権限の広さから考えて、『政府筋』なのは間違いない。
武力で抵抗するデンジ達レジスタンスを表立って支援は出来ないが、さりとて『電源の管理者』を自称するエターナル社と正面から衝突すれば、すでに依存している『全需要電力の32%』を瞬時にして失いかねない。そうなれば、社会基盤そのものが崩壊する危険とてある。苦しい立場なのだろう。
「くそ! ヤツら、次々と電井を強奪しちゃぁ暴利で電気を売りつけやがって……!」
ミズキが足元の空き缶を蹴っ飛ばす。コロンコロン……と軽い音を立てて小さな缶が虚しく転がって行った。
《エターナル社が設定している現在の売電単価は、我々が支配している電井から供給する電力の10倍の値です。これ以上、侵攻を許せば経済に大きなダメージが出るでしょう。事実上、エターナル社に国ごと乗っ取られるようなものです》
「すでに……他国はそうなっとるしの」
フグアイが横から顔を出してくる。
「さっき、定例の国際連絡会があってな……我々以外の国のほとんどがエターナル社に電井の9割以上を抑えられとるそうじゃ。エネルギーを握られては、何も出来ん。地方の経済は壊滅で、食料も満足に供給出来ん。病気になっても医者に薬がない……座して死を待つのみ、という悲惨さじゃよ」
ふー……っと溜息をつき、悲しげに首を左右に振る。
《……幸い、我が国はエターナル社の侵攻もそこまでは無いですからね。何とか、出来る限りの抵抗が必要です。今回は残念でしたが、チーム・デンジを始め『アース』の皆さんには引き続き期待しています。ではこれで》
そう言って、音声は切れた。
そもそも『電井』、すなわち『エターナル・サプライ・システム』の実用化に成功したのは多国籍企業『エターナル社』そのものである。
低コスト低リスクで安定的なエネルギーを生み出すこの画期的システムは100年以上を掛けてそれまでの古い発電システムを次々に駆逐し、全電源の供給を担うまでに成長した。
そして、200年の時が過ぎて。エターナル社は突如として『電源の乗っ取り』を始める。
最初はひっそりと。そして徐々に大胆に。今では大量のエレクトロイドを投入して力づくで奪っている。
そうした電力による支配に抵抗するために集結した各国のレジスタンス達の、立場を超えた共闘……すなわち反エターナル社連合勢力が『Electric Administrator Resist overTable Handshake』、通称Earth(アース)であった。
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