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デンジが予測した通り、件の『水力発電所』に近づいたのは、もう陽が山陰に隠れる頃合いだった。
フグアイが危惧した『風倒木』は荒れ果てた道には何箇所かに転がっていたが、それでもチェーンソーで対処出来る程度であったのはラッキーと言えよう。
「……アレですかね」
大きな双眼鏡で、フォレスターが前方にある巨大なコンクリートの『壁』を観察している。
風雨に晒され薄汚れたその巨大な壁の上部には、複数のエレクトロイドが行き来していた。
「多分な。ドクターから貰った映像資料によると『ダム』って言うらしい。あの内側に、湖のように大量の水が溜めてあって……そこから水を谷の下にある発電棟の施設に送り込んで発電用のプロペラを回すんだとさ」
デンジは注意深く周囲の様子を伺っていた。
「ふーん? よく分かんないけど。……で、『発電所』なんでしょ? どんだけ発電出来るのかしら」
近寄って見てみたかったミズキは、遠くでクルマを止めたのが少し不満なようだ。
「資料によると……あのダムで約20万キロワットとされています。まぁ、あくまで定格最大の値ですけどね」
フォレスターがタブレットで資料を再確認している。
「へぇー! 流石にデカいだけの事はあるじゃんか! だったら、何でヤメたの? 勿体ないじゃん。エネルギー源は『水』なんでしょ? だったらタダみたいなモンじゃんか」
「ええまぁ、定格としてはそうなんですが何しろ大量の水を一気に使うので……」
資料データをスワイプしながら、フォレスターが口ごもる。
「当然ですが、水は使えば減る……つまり『水位が下がる』ので、位置エネルギーが減り、どんどん発電値が減っていくわけです。そしてあのダムの場合、定格値で運転すると約6時間で『使い切り』ですね……」
「ええ!何それ!そんな大量に水を流すの? んじゃぁ、使い切って空になった後はどうすんのさ!」
「暗くて分かりにくいですが、谷の下に溜池があるのが見えますか? あそこに使用後の水を貯めるんです。それで、電気が『余る』夜間に大型電動ポンプを使って『元のダムに戻して次の日に備える』……みたいですね。『揚水式発電』と言うそうですが」
谷の下には、ゆらゆらと不気味に水影を映す池が広がっている。
「つまり何か?」
デンジが振り返った。
「あの発電所は『昼間だけ水を使って、発電所として機能する』って事か?」
「まぁ……そうですね。ですから、この水力発電所単体で考えれば発電機の効率やポンプの効率がありますから『行って、戻してでトータルではマイナス』になります。もっともそれすら『動いていれば』という前提ですけど」
「何それ……役に立つようで立たないって言うか……それじゃぁ、電井の方が遥かにマシじゃん。廃止になるばすよねぇ……」
手を額にかざし、呆れたようにミズキがダムを見つめた。
「まったくその通りだが……だが、だったら何でエターナル社のヤツらがエレクトロイドを寄越してるんだ? 何か秘密でもあるってのか?」
陽は陰り、いよいよ辺りは暗くなっていく。
「……見てください、アレ」
フォレスターが池の近くにある『発電棟』と思しき建物を指差した。
「灯りが着いてます。近寄って、中の様子を見てみませんか?」
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