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接近
チチチチ……チチチチ……。
風音もなく、草陰で鳴く小さな虫の声が気になるほどの静寂。
ガサリ……。
気づかれないように、そっと3人が発電棟へと近寄る。
「もう……何で『歩き』なのよぉ! 足が痛くなるじゃない!」
後方から着いてくるミズキが、足元の悪さにブツブツと文句を言う。
「仕方ありませんよ、ミズキさん。クルマで近寄ったら敵の磁気センサーに反応される危険がありますし、車輪の音で気づかれる可能性もありますから」
フォレスターが、頬を含ませるミズキをたしなめる。
「……文句を言うんなら、着いてこなけりゃぁいいじゃねぇか。つか、アブネーからさっさと戻ってろ」
デンジも半ば呆れ顔だ。
「何を言ってんのよ! こんな面白そうなもの、黙って帰れるワケないじゃんか!」
最後尾から雑草を掻き分けて、ミズキがデンジの横にまでやって来る。
「……って言うか。壁、大穴が開いてるじゃん。中……丸見えよね」
ミズキが指摘するように、発電棟の側壁は大きく開口が開けられており、中の機械が丸見えになっている。
そして、その周辺でエレクトロイド達が機械を使って何やら大掛かりな作業をしているのが伺えた。
「何してんだろ? あれ」
ミズキが、不思議そうな顔をする。
「分解……でしょうか?」
細かいところを見ようと、フォレスターが双眼鏡を使って中を伺う。
「かもな……だが『壊す』ってワケでも無さそうだな。それにしては慎重過ぎる……工具とかを使って、かなり丁寧にバラしてるように見えるが……」
デンジも『よく分からない』と言った面持ちだ。
「ともかく、画像と動画をしっかり撮影して後からドクターに見てもらおう。何か分かるかも知れんからな……」
と、その時だった。
ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!
けたたましい音が建物から鳴り響き始めた。
「やべぇ! 見つかったか!」
デンジが慌てて踵を返す。
見ると、建物の周辺にいたエレクトロイド達が一斉にこちらの方を向いてデンジ達を探そうとしている。サーチライトの白い光が眩しく輝く。
「マ、マズいじゃん!」
ミズキも慌ててデンジに続く。
「赤外線非放射服を着てるんですがね……どうしてバレたんでしょうか……! さぁ、気をつけてください! すぐそこが崖になってますから!」
フォレスターも最後尾から二人を追走し、暗闇の中をロープ伝いに崖下目掛けて滑り降りる。
エレクトロイドは『汎用人形』をしているため、平地での競走となると最高速での持続時間が短い人間に分は無い。しかし、『ロープ伝いに滑り降りる』といった微妙な体幹コントロールを必要とする分野では人間に一日の長があると言ってよかった。
そのため、デンジ達はあえて崖を背後に隠れていたのだ。
「急げよ……隠してあるクルマまで戻るんだ!」
背丈ほどの草むら掻き分けて走りながら、デンジは二人を鼓舞した。
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