禁断のあの味は最高の味

1/1
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/218ページ
「書けた」  目の前に広がるのは婚姻届。今あたしは自分の名前を記入してこの書類を完成させた。 「じゃ、出しに行こ」  そう声をかけてくれるのは相手の男。――当然この婚姻届に書かれた相手の男。  がさがさと片付けられる書類。その音を耳で聞き流しつつ、息を落ち着けようと大きく新呼吸して目を閉じた。  脳裏に浮かぶ人影。  あたしにはこの面影だけの人と1つだけ取り付けてきた、大事な約束があった。 「この先何もかもしくじって、お互いどうしようもなかったら――一緒になる」  そんな甘酸っぱい約束を交わした人がいた。いると言った方がいい。  目を開くとそこに優しく微笑む男が佇んでいる。  脳裏に焼き付く面影がこの男のものでないことは言うまでもない。
/218ページ

最初のコメントを投稿しよう!