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「書けた」
目の前に広がるのは婚姻届。今あたしは自分の名前を記入してこの書類を完成させた。
「じゃ、出しに行こ」
そう声をかけてくれるのは相手の男。――当然この婚姻届に書かれた相手の男。
がさがさと片付けられる書類。その音を耳で聞き流しつつ、息を落ち着けようと大きく新呼吸して目を閉じた。
脳裏に浮かぶ人影。
あたしにはこの面影だけの人と1つだけ取り付けてきた、大事な約束があった。
「この先何もかもしくじって、お互いどうしようもなかったら――一緒になる」
そんな甘酸っぱい約束を交わした人がいた。いると言った方がいい。
目を開くとそこに優しく微笑む男が佇んでいる。
脳裏に焼き付く面影がこの男のものでないことは言うまでもない。
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