僕は紅茶が嫌いだ

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
カラコロカラ 「ごめん遅くなった。」 「ううん、今来たとこ。」  いつものお店のドアが開き、彼女が入ってきた。  僕は時間に厳しいので、いつも僕が待たされる。  これは、いつもの決まり事だけど、それも今日で終わることはお互い わかっていた。  高校生までお勉強一筋で、大学デビューを果たした僕は社会人になっていた。  地元に帰ってきたこともあり、学生時代みたいにもう馬鹿はできない。女遊びなんて、もっての外だ。  彼女とは仕事で知り合った仲だが、その春、入社したばかりで、仕事が忙しく、なかなかデートの時間が取れない。  社内恋愛禁止はなかったけど、お互い、関係がばれるのに気をつかっていたのも事実。  部署は違うので、たまに会社のイベントで顔を合わすことはあるが、 お互いそ知らぬふりをしなければならない。  長い黒髪のスレンダー美人の彼女は人気があるので、社員はもちろん お客さんにもチヤホヤされる。  それが、僕にはガチで面白くなかった。  自慢に思ったり、誇りに思えるほど大人じゃなかったんだ。  かと言って、人目を避けたたまのデートの時に、それを口に出すのは 僕のプライドが許さなかった。ガキだったんだね。 「言いたいことがあったら、言ったらどう。」  それが、かえって彼女の機嫌を損ねたのも事実。   「 〇〇さん(僕の本名)と一緒にいるとこ見たけど、あなたたち   つき合っているの?」  会社の同僚に聞かれても、笑ってごまかすことができない真面目な 性格だった。  ぶっちゃけ、僕、遠距離恋愛の彼女がいた。  だから罪悪感もあり、彼女に対して心底踏みこみきれないところが あった。  女の勘は、鋭い。  きっと、見破っていたに違いない。  当然、別れが来る。  その時、僕はコーヒーのホット。  彼女は紅茶、レモンテイーだった。  別れ話の内容は、省く。  思い出すだけでも、悲しくなるから。  心が切なくなる。  すべて、僕が悪い・・・・。  彼女が泣きながら帰って行ったあと、僕は彼女の口紅がうっすら付いたカップを暫く眺めていた。  無言で・・・・。  その日は、僕は国道沿いのバッテングセンターで、色々なことを、 思い出すだけでも恥ずかしくなることを叫びながら、ひたすらボールを 打ちまくった。  手にまめができるくらいにだ。  次の朝は、全身筋肉痛だった。  やけ酒を飲みすぎて、二日酔いもひどく、頭が痛かった。  何より、心が痛い。  その日から、僕は紅茶が大嫌いになった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!