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プロローグ
暗がりに熱が灯る。
棺に着火したのだ。
まだしばらくは燃えないだろう。
閉じた瞳の中にはなにもない。黒だ。
僕を囲む花の感触が厭わしい。
名前のわからない花の独特な香り。
しかし、後立ちは清涼感があり、なんだか気の休まる思いがした。
まるで自分が死んだような錯覚に陥る。
まあ、外の連中にしてみれば自分は死人同然だろうが。
何も考えたくなくて瞳を閉じた。充満する香りが脳を満たしていく。
安らかな気持ちなまま、いっそ本当にここではないどこかへ行けないかと思った時、暗闇の中にぽつっとオレンジ色の明かりが灯った。
それはじわじわと水平線から上る熱源が太陽に視える。それはじわじわと広がっていく。
まるで夜明けみたいだな、ほのかに熱を放ちだす花に包まれながら思う。
恐怖を感じないのは人肌のような温もりと棺が焼ける臭いをかき消すくらい強くなった花の香りのせいだろうとどうでもいい憶測が頭をよぎった。
なぜか安心している自分の心に戸惑うこともなく死人のように呼吸を止める。
そして、苦しみが訪れる前に僕の意識はゆっくりと光の中に溶けていった。
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