葬送人に朝は来ない

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葬送人に朝は来ない

 暗闇の中で意識が覚醒する。  体感が戻るまで目を閉じていることすら解からなかった。  意識の覚醒に伴って自然と瞼が上がる。視界の先は茶色い天井。  知らない場所だ。ベッドの上に寝かされていた。 「あら、起きたみたいね」  視界の外から女の子の楽しそうな声がする。  けだるい体を起こして首を回らした。 「こんにちは、新人さん。あなた、随分寝ていたけれど体の具合はどう?」  少女は一方的にそれだけ言う。気づかうふりをしているのがあからさまな物言いと新品のおもちゃを見るように歪む赤い瞳に面食らう。 「なんともない。ここは・・・まさか」 「そう、あなたの想像通りの場所よ。確認する前に食事にしましょう。先に食べてるから着替えてからきて」  少女は返事も聞かずに背中を向けた。  レースで上品に飾られたゴシック調のワンピースがふわりと揺れる。  真黒なセミロングと相まって貴族の少女のような雰囲気を醸し出していた。  寝室のドアが閉まると同時に着替えを済ましてすぐに彼女の後を追って扉を開ける。  まず感じたのは食事の匂い。ブラウンシチューと他にも二,三種類程度の料理を作ったのか、なんにしても人間の生活臭に安心する。  そして、目の前のテーブルで食事をしている二人ともう一人に目をやった。先ほどの少女はティーカップを静かに傾けている。雰囲気が優雅だ。 対面に座る老人も食事中で硬そうなパンをシチューで流し込んでいる。  無骨な動作と粗雑な風貌、こちらに見向きもしない愛想の無さから思うにかなり気難しい人物なのは間違いない。  そして、その隣の一際異様な要望の生物、赤茶で厚めのコートを着たアルマジロがはしゃぎながらフレンチトーストを食べている。  スプーンとフォークを上手に使いコートに一切シロップのシミを作らず一番楽しそうに食事する様は、正直この部屋の中で一番人間じみていた。  そのせいか異様な風貌でもちゃんとこの場に馴染んでいて、そのおかげで思ったより目の前の異形に嫌悪感は抱かなかった。 (もしかしてコスプレ趣味ってやつか)  中身が人間の可能性も十分ある。それにしては肌の質感や見た目があまりにも本物っぽいが。  見回すと居間はキッチンと4人掛けのテーブルのみという簡素な構成。右の扉から外に出られるようだ。 「冷めないうちに食べれば?」  少女の声に思考を中断して彼女の隣に着席する。 「私はアヌビス、彼は墓守のセイラン・フーノ、無口で不愛想で付き合い辛いけど世話になるし、役にもたつ男よ。ちなみにここはセイランの仮眠所ね。で、隣の彼はここらぐいよ」  思わず少年はシチューを噴き出した。 (名前あるんかい!)
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