葬送人に朝は来ない

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 しかも妙な名前である。 「ちなみに人間の仮装じゃなくて本物ね」 「そ・・・そうなんだ。ああいうのここにはたくさんいるの?」 「ええ、なんだあなた驚かないんだ」 「うん、まあね。あれなら嫌じゃないや。そういえば僕はここでずっと寝てたのかな?」 「・・・いいえ、墓地の真ん中に転がっているのをセイランが運んだの、三日前に」 「そうか、じゃあさっそく大分お世話になったわけだ。セイランさんありがとうございます」 「・・・構わんよ。あそこに寝ていられると迷惑だからな」  伏し目がちにそれだけ言う。確かに愛想はないが悪い男ではなさそうでほっとする。  食事はすぐに済んだ。空の食器をここらぐいが片付ける。 「食事、美味しかったです。それで【街】にはどうやって行けばいいのかな?」 「小屋を抜けたらすぐ墓地だから突っ切って森を抜けるとつくわ。そこであなたの心残りとパートナーを探しなさい」 「パートナー?」  思わず聞き返す。この街の噂は元の世界でも聞いていたがパートナーが必要だというのは初耳だ。 「ここに来た人間には異形のパートナーが必ず用意されているの。ちなみにここらぐいはセイランのパートナー。あなたのパートナーは街にいるんじゃない?なるべく早く見つける事ね。温厚な異形ってそんなに多くはないから」  不快感が表情に出たことは自分でも解かった。つまりこの街にいる間はずっと自分の傍に化け物を置かないといけないということだ。 (ここらぐいみたいに動物っぽいといいんだけど)  彼女のパートナーは見当たらないがどこかにいるのだろう。 「わかったよ。ありがとうアヌビス」  少女は軽く微笑み椅子から降りると戸口へと向かう。  開いた扉の先には薄暗い墓地と闇に埋もれた森、そして木々の奥で燃える夕焼けが広がっている。 「最後に忠告するけどあの街は夕日と同じで心を引くから長居をしないこと。用事が済んだらこの小屋に帰ってきなさい。あそこは捨てられたモノ達の居場所だから」 「必ず帰るよ・・・そうだ名前をまだ言ってなかったね。僕の名前はホーン・フラブス」 「ホーン、行ってらっしゃい」  ホーンは挨拶を返して小屋の外へ出た。  そして、吸い寄せられるように光の方へと歩んでいく。
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