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扉が開いた瞬間、幾つもの目がこちらを凝視する。
その目の中には、あのかわい子ちゃんのものも。いざ入ってみると足がすくんでしまう。こみ上げる羞恥心に、たまらなくなって床を見る。
どうしよう。
その時、パンパンっと聞き覚えのある音が鳴った。壇の方からだ。ずっと私に向けられていた視線が一瞬にしてそちらに向けられる。
下を見ていた私もそれに釣られて壇上を見ると、
そこにはさっきぶりの若い女性。
そして女性はコホンと咳払いをしてから言い放った。
「はーい、注目ぅ!
今来た子がさっき言ったサプライズゲストよ〜!授業の中でのレッスンはこの子を手本にするように。」
…は?
サプライズ?あの言い方だとおそらくそのゲストやらに当てはまるのは私だろう。
しかしそんな話一度も聞いていない。
そもそも私は“初日から遅刻した奴”なのである。別にダンスとか歌が飛び抜けて上手い訳でもない。手本なんてとてもじゃないが務まらない。
そもそもあの女性、そんなに偉いポジションだったのか。
再度集まってきた視線に対して、苦笑いを浮かべると拍手の音がこちらに押し寄せてくる。完璧な営業スマイル的なやつに見えたのだろう。勿論、拍手をしている他のメンバー達が近づいてきているわけではない。でも、そのくらいに煩かった。
本来の私であれば調子乗ってキメ顔とかしちゃうんだろうけど生憎今は状況自体よく理解できていないためそんな余裕ない。
講堂全体に広がり、響いた音が自分の鼓膜を嫌に刺激する。
こりゃもう耐えきれない。
フッと全身の力が抜けた。視界もぼやけてよく見えない。
ドンッ!
背中に強い衝撃が走る。
さっきまでの拍手は止み、代わりに悲鳴がこだました。
自分がどうなっているのかすらも分からない。体を動かそうと試みるが動かない。せめてと思い視線を彷徨わせる。ピントが合っていないので確証は持てないが、今瞳に写っているのはおそらく照明。
なるほど、私倒れたのか。
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