6人が本棚に入れています
本棚に追加
一つ瞬きすると、そこには数秒前とは違う光景。あのギラギラと光る、目に煩い光ではなく、柔い蛍光灯の光が見えた。衝撃とともに耳に響いたあの騒音もなく、ただただ静かだ。
背中はまだ少し痛むがシーツの柔らかさに包まれている今の状態ではほぼ無と言ってもいい。
痛まないわけではない。もう一度言おう、決して痛まないわけではない。
それにしても此処は一体何処だろうか。私からしたらただの瞬間移動としか思えない。ぼやっとしながら記憶を辿っていると、
コンコンコンコン
ノックの音が響く。
扉が何処にあるか分からないし体を動かすのも億劫だったので今の状態のまま「どうぞ」とだけ言っておいた。
やがてゆっくりと扉が開く音がした。
この目で見てはいないものの、何処かおずおずとした相手の雰囲気を感じて少し可愛いななんて思ってしまった。
やがて足音が止む。
先程とは打って変わってピシリとした相手の雰囲気にほんの少し圧倒される。
立ち止まったのは私の真ん前。
瞳にスラッとした美脚が写る。羨ましい限りだ。
「飯田さん、だっけ?」
唐突な呼びかけに驚きつつも返事をする。美脚の持ち主は少しの間をおいてからまた話しだす。
「体調は?」
「体調は…、えっと今はまぁ、そう、ですね…。そこまででも、ないですかねぇ〜……。」
私がかなりあやふやに答えると目の前の人は軽くため息をつく。
なんというか…よく分からないが屈辱的な感覚になった。今目の前にいるこの人と夢の中で喧嘩でもしたのか私は。
初対面の人に屈辱を覚えるとか、私も結構異常だな。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったよね。ふふ、初めまして!私は西園寺美薗(さいおんじ みその)。これからよ、ろ、し、く、ねぇ〜!」
「え‥あ、はい。よろしく…です。」
フレンドリーすぎて正直驚いた。
強調された“よろしく”という言葉に少し胡散臭さを感じながらも返事をする。
美脚さんこと美薗ちゃんはスッとしゃがみ、ベッドよりも低くなった体勢で私の方に手を差し出してくる。
握手ということであっているだろうか。取り敢えず手を重ねる。
手を繋いだまま3回ほど手をブンブンと振られると相手の手が離れていった。握手という私の中の答えが合っていて良かった。
ちょっぴりホッとした。
最初のコメントを投稿しよう!