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「まず筋肉の筋が右上がりの斜めになるように切り身を置く。お前の場合は右下がりになって切っていたが、それだと筋の繊維に引きずられて身が崩れちまう。そんで、置いた後は筋の線と包丁の刃が直角になるように右端から切っていく。これが基本だ」
その後も父親から教わり続ける少年だった。
★
「疲れた……」
特訓が終わり、寝泊まりしている寮室へと向かう少年。
少年の名前は湯澤健一。
旅館のゆざわ荘は家族が経営していて、母親は女将、父親は板長を務めている。
3人家族ではあるが、両親は共に忙しく、更に息子の健一が通っている学校は同じ登別市とは言え、登別温泉とは離れた場所にある事から、健一は普段、母方の親戚の家で暮らしている。
しかし今は夏休み、この期間は両親に会う為にゆざわ荘の従業員が利用している寮の一室で寝泊まりする。
そして今年の2018年、高校生となった健一は父親から調理師としての料理の技術を教わる事になったのだが……結果は酷いものだった。
「はぁ……」
寮室の扉の前に着き、ため息を吐く健一。
これから夏休みの期間、あんな特訓が続くと思うと、気が滅入る。
「今日はもうすぐ寝よう……」
そう呟きながら健一は扉を開けて自分の寮室に入る。
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