番外編「昔の話」

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番外編「昔の話」

side-咲洲滴(次男) お母さんの腕の中で眠っている弟のことを見て、初めて心を動かされた。 自分が異常で異質で、この小さな生き物に恋をしたと自覚した瞬間だった。そして誰にもそれらを気づかれてはいけないと本能で感じた。 だからバレていないかお母さんやお父さん、葵兄さんのことを見た。お母さんとお父さんは優しい笑顔で弟のことを見ていた。 葵兄さんは、僕と同じ目をしていた。 弟、棗が生まれて二年経つとまた新しい弟が生まれた。 もしかしたら、弟なら誰にでも恋心を抱いてしまうのではないかと不安だったが、そんなことはなかった。葵兄さんもそのようで、ホッとした表情をしていた。 棗は嬉しそうに新しい弟、柚の手を握ったり頭を撫でたりしていた。 僕と葵兄さんが棗に構って貰いたくて、近寄ってもそっぽを向いたりべちべち叩いてきた。 もしかして嫌われたのかと思ったけど、柚を構うと嬉しそうにするからきっと、みんなで仲良くしたかったんだろう。 だが、大きくなるにつれて棗は僕たち兄弟を避けるようになった。 side-咲洲葵(長男) 棗が柚に意地悪をするようになったのは、柚が十歳になってからだった。 意地悪と言っても可愛いもので柚を睨んだり、無視するくらいだ。どうせ柚が棗に何か悪いことをしたのだろう。 棗は純粋でいい子だが、柚は十歳ながらも見ていて腹黒いと思うことが多々ある。 「あおにぃ、しずにぃ。少しお話があるの」 そう柚が声をかけてきたのは、棗が柚を虐め始めてすぐだった。 「協力してなつにぃを堕とさない?」 そう言いながら妖美に笑う弟に、どこで育て方を間違えたのかと俺と滴はため息をついた。 もちろん柚の提案を聞いて、俺はすぐに断った。 棗は俺だけのものにしたいのであって、分け合いたいわけではなかったからだ。 滴も同じ意見のようで、断っていたが柚は続けて言う。 「なんでなつにぃが僕を虐めてるか知ってる?」 「いや、知らない」 「柚のことが気に入らないんじゃない?」 「…ふふ、それはね、僕を総受けにしたいからだよ」 柚はそう言いながらニヤリと笑う。十歳がする顔ではない。 「総受けって何?」 「あおにぃとしずにぃが僕のことを犯すってこと」 「それを棗は望んでるのか?」 「そうだよ。だからさ、乗ってあげない?」 「僕と葵兄さんが柚のことを襲うってこと?嫌なんだけど」 「俺も、棗以外の男とどうこうなりたいと思わない」 俺と滴が拒否すると、柚は小さくため息をついた。 「そんなの僕もだよ。僕が言いたいのはさ、なつにぃの作戦にかかったふりをして、なつにぃを手に入れるんだよ」 「具体的にはどうするんだ?」 「まず、あおにぃとしずにぃはなつにぃのことを嫌う演技をして。睨んだり、嫌味を言うくらいでいいよ。それに僕はなつにぃを庇うから。その時は素直に引いて」 「そんなことしたら僕と葵兄さんが嫌われるじゃん」 「それはないね。なつにぃにとって僕たちは大好きな推しだから、そこは安心して。二人は僕のことを好きな演技をすればいい」 side-咲洲柚(末っ子) 兄たちは僕の提案を最後まで聞くと、乗ると答えた。 「なつにぃを独り占めしないように協定を結ぼうよ」 「それは良い意見だ。では協定を破ったら、もう二度と棗に近づいてはいけないことにしよう」 「いいね、それ」 これで舞台は整った。 あとはなつにぃに僕達の濡れ場を見せて油断したところを襲う。 やっとやっと、なつにぃと繋がれると思うと興奮が抑えきれない。 兄弟との話し合いが終わって、部屋に戻ろうとすると何かに躓いて転んでしまった。横を見ると少し申し訳なさそうになつにぃが俺のことを見ている。 多分なつにぃが足をかけてきたのだろう。 なつにぃに一言声をかけようとすると、あおにぃとしずにぃが近寄ってきた。 「大丈夫か?柚」 「怪我はない?」 その様子をなつにぃは見てニヨニヨしている。 しずにぃの方を見ると、またニヨニヨしていた。多分僕が転んだことを笑いたいのだろう。 ムカついたから「ありがとう」と笑いながらしずにぃの足を思い切り踏んずける。 すると情けのない声を出していた。なつにぃはその声を聞いて心配そうにこちらを見る。 こんな奴を心配するなんて本当になつにぃは優しい。 なつにぃ、咲洲棗は僕のことを唯一ひとりの人間として見てくれる。僕を虐めてる時少し罪悪感の籠った目をしていることに、遠目から僕を見る時愛おしいものを見る目をしていることに、なつにぃ自身は気づいていないだろう。 あぁ、愛おしい。 早くあの白く綺麗な肌を汚したい。
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