小さな恋のその先に

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 街で一番やんちゃなリカルドは、自宅で七日間の反省を強いられた。  力比べ遊びで、相手に大ケガとはいわないまでもそれなりの怪我をさせてしまったのが原因だ。双方合意の上での結果とはいえ、母親いわく力加減を覚えろとのこと。  力加減をした力比べのどこが力比べなのか。相手に失礼だ云々かんぬんと言いつのったがうるさいと一蹴された。  とはいえ、最初は三日間の謹慎のはずであった。リカルドがきちんとおとなしくしてさえいれば。  謹慎一日目。リカルドは家をこっそり抜け出そうとして両親に捕獲された。  二日目。こっそり壁に穴をあけ、脱出成功。しかしながらすぐに隣家の兄ちゃんに見つかって御用となった。そうして謹慎の日数は延ばされたのである。  一度、母親は自宅での謹慎は難しいと、牢に入れることさえ検討していた。知り合いの牢番に相談したところ、勘弁してくれと言われたが。勘弁してほしいのは牢の私用なのか、あのリカルドを預かることなのかは定かでない。  そんなこんなで平穏無事とは言えないものの、どうにか謹慎があけリカルドはシャバの空気を吸えることと相成った。自由の身となったリカルドがまずどこに向かったかというと、森である。  立ち入り禁止の、森である。  バレたらまた即謹慎である。全然懲りちゃいない。反省も何もしていない。そんなこと知ったこっちゃないとばかりに森へ向かっている。  本人にしてみれば、正当な理由があるのだ。  リカルドは、同年代の誰よりも強い。力比べ遊びでは負け知らずだ。けれどそのせいで実力の程がわからない。  森の奥の奥のさらに奥には、バケモノが住むという。たんなる伝説や作り話の類いではない。実際に村がいくつか襲われている。リカルドの街にも、村を壊滅されて避難してきた家族がいる。  バケモノに対抗するための戦士を、リカルドは目指している。実際にそのバケモノと戦ってみれば、自分の実力がわかる。力比べ遊びではなく力試しだ。  ずんずんと森の中を進んでいく。迷うかもしれない、帰れなくなるかもしれないという不安は一切ない。ただ奥へ奥へと進んでいく。  そうして、ある瞬間、突如として周りの空気が変わった。境界を越えたのだ。ならばいつバケモノが出てきてもおかしくない。リカルドは五感を研ぎ澄まさせた。  と、どこからか何かが聞こえた。  やけに興味を引かれて、その音が聞こえる方へと向かう。近づくにつれ、それが泣き声だとわかった。時折、ごめんなさいという声も聞こえる。  やがて大きな石造りの建物が現れた。  なぜこんな森の奥、それも境界の先にこんな建物があるのか。慎重に周囲を巡る。声はその中から聞こえている。  ゆっくりと窺う内に、少し高い位置にある穴、恐らくは窓なのだろう、の一つから声が聞こえるとわかった。その穴を見上げ、リカルドは少し悩む。  リカルドは泣き虫が嫌いだ。でも、この声はやけに気になる。 「ねぇ、大丈夫?何で泣いてるの?」  泣き声が消える。声は聞こえたのだろう。けれどすぐには返答がなく、リカルドはもう一度口を開こうとした。 「そ、外に誰かいるの?」  リカルドが口を開くより早く、中から声が聞こえた。それが嬉しくって、リカルドは瞳を輝かせる。 「うん。僕はリカルド。君は?」 「わ、私はエレナ。な、なんで」 「エレナ!すごく素敵な名前だね」 「あ、ありがとう?あの、リカルドはどうして外にいるの?」 「………!」  エレナに名を呼ばれた瞬間、身体に電流が流れたかのような衝撃が走った。何が起きたのかわからず、ただ気分が高揚する。 「近くの街から来たんだ。森の中を歩いてたら君の声が聞こえて」 「あ、危ないよ。森の中にはバケモノがいるって、父様が。それに、見つかったら怒られる」 「心配してくれるの?エレナは優しいね。でも大丈夫だよ。怒られるのなんていつものことだから」  石壁に手をついて、リカルドは話しかける。ジャンプすれば窓に届くだろうか。届けば、エレナの姿を見ることができるだろうか。 「ちがう。ちがうの。ここは秘密の場所だから。見つかったって知られたら、父様が何をするか」 「そうなの?じゃあ入り口から訪ねても、エレナには会えない?」 「ダメっ!」  強く言いきられ、リカルドはしょんぼりする。 「お願い、リカルド。早くここから逃げて。ここのことを誰にも言わないで。もうここに近寄らないで」 「お願いされちゃ断れない。でもごめん。最後のだけは叶えてあげられない。また明日、エレナに会いに来るよ」 「リカルド!」
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