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「佐伯 えり子と申します」  今日も異業種交流会に参加し、何人もの人の前で、そう名乗った。  この名前になって、何年たつだろう。  自分でつけたのに何だが、けっこう気に入っている。    私は探していた。  次のターゲットを。  会場の人波の中をゆっくりとたゆたう。  サテンの紅いドレスは、一足進むごとに一瞬脚に絡み、スルリとほどける。その絡む一瞬に、体の線が際立つ。それは、計算済みだ。  微笑みを浮かべ、時には大袈裟に相槌を打ち、反応を見る。  そして、遂にみつけた。  彼は、南純平といった。 「まあ、コンサルタントをされているんですね」 「経営ではないですけどね」  ちょうど良かった。  口過ぎに経営していたイタリアンレストランは、赤字が続いていた。  このままでは、早々に立ち行かなくなってしまう。  そのことを相談に乗ってもらいたいと打ち明けると、彼は目を輝かせた。  その視線が、私の輪郭をなぞったことは、見逃さなかった。          
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