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   春四郎は乾いた唇を戦慄かせながら、実を見据えて口を開いた。 「わっ、私…いっ、生きたい…生きたい…。助けて…死ぬのは怖い、怖い…」  ザアッと強い風にあおられた木々が、狂ったように泣き叫ぶ。 ―その刹那、よろめいた春四郎の細い身体を力強い腕が抱き込んだ。 「…生きよう。俺と共に生きよう、春四郎」  一足飛びに階段を駆け上がってきた実の腕に、骨が軋むほど抱きしめられる。  春四郎の背に回された実の腕はしっかりと交差され、春四郎の身体をこの世に繋ぎ止めている様だった。 「あぁ…」  春四郎は実の胸の中で泣き崩れる。  ずっと、ずっと、ずっと―――  私はずっと、このぬくもりが欲しかった。 実に与えられる体温によって、今まで身に纏ってきた見えない防具(ほろ)が、瞬く間に溶かされ消えてゆく。 丸裸にされた、春四郎の心。 その心が想う事は、ただ一つだけだった。 もう二度と、実を手放したくない。 これからこの先、どんなことがあろうとも。 「じつ、じつ、じつ、じつ」  春四郎が狂ったように実の名を連呼すると、それに答えるように春四郎を抱く拘束が強くなる。 「ずっと、ずっと、ずうっと‥‥私を離さないで―――」 春四郎の言葉に、実が大きく眼を瞠る。 だが次の瞬間、実に乱暴に掻き抱かれ、春四郎の身体は再び実の腕の中に閉じ込められた。 「当たり前ぇだ。俺ぁこう見えてしつけぇンだぜ。覚悟しやがれ」 実が声を震わせながら、春四郎の耳元で囁いた。  本当にいいの? …こんな私でもずっと離さないでいてくれる? …こんな私でも生きていて、本当にいいのだろうか?  これからは実と一緒に― 春四郎は実の広い背に手を伸ばし、これ以上二人が離れぬよう、しっかりと抱きしめる。 「もう絶対に、離さない」  泣き濡れた実の熱い頬が、春四郎の頬に強く摺りつけられた。 暮れゆく空。 二人を濃い闇が包み込む。 けれど二人は離れなかった。 ざわざわと鳴き続ける草木の中、互いに互いを縛り付けるように―― ‥‥二人は飽くこともなく、いつまでも強く抱きしめあっていた。
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