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春幸は額に押し当てていた掌をおもむろに離すと、重蔵が吹き矢でつけた右手首の傷をジッと見つめた。
だがそれでは春四郎の身体は生き永らえても、春四郎の心は死んでしまうだろう。
榎本の家に生涯縛られ続けて死んでいった、父春信と同じように…
―重蔵、お前が助けたのは春四郎の身ではない。腹の内のモノノ怪にもう少しで食らおうとされていた、拙者の心を救ったのだ
お前はとっくに気づいていたのだな。拙者の邪な心根を…
春四郎がずっと欲しかった。
けれどそれは決して…全てを奪いたい訳ではなかった。
ただ春四郎を愛していた。
自分でもどうにもできないほど強く―春四郎を愛していただけだった。
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