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「ちちうえ、叔父上は本当にいんきょやしきで腹をきってしまったの?周囲のものは皆口々にそれを話しているのだけれど」
不安そうな眼差しで、春太郎が問うてくる。
春幸は少し逡巡した後ゆっくりと頷くと、春太郎の小さな身体をギュッと抱きしめた。
「武家の男として…春四郎が選んだ最期は、じつに見事なものであった。これまでも―そしてこれからも、拙者にとって春四郎はいつまでも自慢の弟だ」
そう伝えた途端「うわーん」と堰を切ったように泣く春太郎の声が、春幸の胸元でずんずんと鳴り響いた。
春幸は優しく春太郎の小さな背中を何度か撫でると、空に向かって飛び立つ雛鳥の屏風絵を目にして、眩しそうに目を眇めた。
春四郎、私の可愛い弟よ
どうか誰よりも…誰よりも幸せになっておくれ
春幸が心の中で呟いたその刹那-襖の隙間から流れ込んだ夜風が、扇子についた宝来鈴をチリン…と一つ鳴らしていった。
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