1人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは、数年前。友達ととある山にハイキングに行ったときのことでした。
季節もよく、天候にも恵まれ、わたしは気の置けない友人数人と何十年かぶりのハイキングを楽しみました。しかし登りはよかったのですが、いざ帰ろうと山をおりている途中。普段会社ヘの行き帰りぐらいしか歩かないわたしは、体力のなさが露呈し、友人たちにどんどん置いていかれてしまったのです。
とはいえ、小学生でも登れるような、整備されたハイキングコースです。迷うような脇道もなく、だからこそ、友人たちも「大丈夫?」と声をかけこそすれ、わたしの「先に行ってて」という言葉に頷いたのです。
正直、半分は意地でした。
わたしは足をがくがくさせながらも必死に道を進みました。周りの景色を楽しむ余裕もなく、ただひたすら右足と左足を動かす作業です。
どれぐらい歩いたでしょうか。足元にもやのようなものが見え、ふと顔をあげてみると、なんと一メートル先も見えないような霧が立ち込めていたのです。山の天気は変わりやすいとはいうものの、こんなにも急に変わるものかと一抹の不安に襲われました。当然、先に行った友人の姿も見えません。
それでも一本道であることにはかわりありません。わたしは足元に気を付けながら歩き続けました。ほどなくすると、こちらに向かってくるいくつかの影が見えました。一本道ですから、つまり頂上に向かうハイカーということです。
わたしはホッとしながら、少しばかり早足になりました。そしてマナーとして挨拶をかわそうと口を開いたのです。
「こんにちは」
「こんにちはー」
顔を会わせた瞬間。一瞬、時が止まりました。
わたしも。
むこうも。
何故なら、その姿はーーーー。
最初のコメントを投稿しよう!