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第3章
醜態をしでかしてしまったら、ずっと隠れていたくて、誰にも見つけてほしくなくて、ほっといてほしくて、遠くへと遠くへと、どこまでも逃げ続ける。
そこは出口の見当たらない、苦境地帯だ。
それでも、雅咲は教室から一番近場のトイレに居た。
安易な雅咲の考えなど隆尋には全てお見通しだ。
探してほしいから、隠れる。
追いかけてほしいから、逃げる。
会いたいから、待ち続ける。
古びたトイレのドアの開く音が雅咲の耳に届く。その軋んだ音はそこはかとなく哀愁を匂わせる。
背中を丸めて便器の上に座り込んでいた雅咲は、一瞬、身体を強張らせたが、それもすぐに自然体へと元通りになる。
足音だけなのに、どうして分かってしまうのだろうか。
隆尋の足音と雅咲の心音が滑らかに合わさって重なり、溶けこんでいく。
この安らぎの音楽は、雅咲の好きなCDよりも価値あるものだ。
隆尋が閉じられた一つの小部屋の前まで来ると、足音は止まった。
今、雅咲の居る場所は小部屋というほどお洒落な場所でもないのだが……。
そんな密室空間も鍵一つさえ解錠されれば密室ではなくなる。
トイレの鍵なんて厳重どころか簡単にこじ開けられるのだから。
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