第2章

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     隆尋が雅咲の机を指さす。  啓輔とすみれも雅咲の机に視線を移す。 「雅咲、教室に財布を忘れたんだ」  隆尋がここにいる理由をさりげなく説明する。  雅咲を盗み見扱いさせないためだ。  雅咲は今回のようにきっかけでもないかぎり、人のプライバシーを邪魔するような真似はしない。  啓輔が雅咲の財布を取りに行こうとしたら、すみれが雅咲の机の中から財布を取り出していた。  啓輔とすみれが雅咲の財布を間に挟んでアイコンタクトを交わす。  隆尋はそんな相思相愛な微笑ましい二人の関係にますます嫉妬した。  そして、今すぐ雅咲の財布を奪い取りたい。  いつまでも、すみれの手の中にあるのは面白くない。たとえ数秒間でも隆尋は苛立つ。  それは財布に限らず、雅咲の物全てに関してだ。  心が狭いと(けな)される事は本望だ。  心を広くして許せるほど、隆尋はまだ大人にはなれないでいる。  本気の恋はいつだって、ちょっとした油断が命取りになってしまう危険性がある。  鍵をかけて守備したとしても、いつ何時、連れ去られて空っぽにされるか分からない。  警戒心を怠らないでいる事は、常日頃から必要不可欠だ。     
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