第3章

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     隆尋と直接顔を合わせている訳ではないのに、雅咲は顔を斜め下に伏せた。  たとえドア越しで顔は見えなくても、雅咲は隆尋と向かい合えないでいる。  雅咲が弱々しい声で隆尋にたずねる。 「隆尋は、知ってたの……?」 「何を?」 「啓輔とすみれが、ああいう関係だったこと……」 「知らなかったよ」 「嘘だ!!」  どこまでも冷静な態度で、何もかも知りつくしているかのような物言いをする隆尋に憤慨した雅咲は声を荒らげた。  激情した雅咲は思わず便器から立ち上がる。 「本当だよ。本当に知らなかった」  いつから、隆尋はそんな低い声で雅咲に話しかけるようになったのだろうか。  身長だって雅咲と同じ目線だったはずなのに、いつしか雅咲は隆尋を見上げるようになっていた。 〔 男の子 〕が〔 男子 〕へと、〔 男子 〕が〔 男性 〕へと成長していく過程は誰にでも訪れる。  その隆尋の成長過程を雅咲は誰よりも間近でずっと見てきていたはずなのに、今になって急に戸惑い始めていた。  だから気になる。  隆尋にとって最高位にいるのはいったい誰なのか。  ここまで隆尋に心の半分以上を占められて、胸が締めつけられているのは雅咲だけではないのではないのかと。      
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