第3章

5/11
前へ
/38ページ
次へ
     雅咲の理想像に近付きたい隆尋が雅咲に問いかける。 「じゃあ、どんな俺なら好きなの?」 「かっこ良くならないで!」  雅咲が怒鳴って返答しても、それだけではわかりにくいからと、もっと詳しく教えてほしいと隆尋は追究する。 「どんなふうに?」 「いつも髪をボサボサにしていてほしい!」  隆尋が自分の頭を両手でわしゃわしゃと掻き乱す。 「今日から髪を梳かすのやめるよ。ほかには?」 「いつも不潔にして、人から毛嫌いされて、誰一人寄せ付けないで!」  隆尋がなんの抵抗もなく、湿っている汚れたタイルの上に座り込む。 「風呂も三日に一回にするよ。ほかには?」  ほかには?  ほかには ――――。  ほかには、いらない。  ほかには、望まない。  ほかの人には、頼まない。  雅咲がこんな事を言えるのは、ほかでもない隆尋だけなのだから。 「隆尋の髪がボサボサでも、隆尋がどんなに不潔で臭くなっても、おれはずっと隆尋と一緒にいるよ!!  隆尋とずっとずっと一緒にいたいよ!!」 「だったら俺の傍にいろよ!! いつまでもそんな所に閉じこもっているなよ!! 早く出てこいよ!!  なんで出てこないんだよ!!」 「言われなくても出て行くよ!!」  鍵のかけられた小さな箱も、『隆尋』という名前の鍵で開錠される。      
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加