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飛び出した雅咲の目の前には、髪をボサボサに乱した全身から異臭の漂う誰よりも愛しい人がいる。
幼少期の頃から見馴れている顔なのに、いつまでも見馴れない。
気づいてしまったこの感情は、まだまだ生まれたばかりで新鮮そのものだ。
雅咲が隆尋に抱きつく。
隆尋が雅咲を抱きしめる。
こんなふうに雅咲を抱きしめたいなと、毎日、隆尋は脳内だけで何度も想像してきた。
けれども、所詮は想像なんて偽者だ。
実物である雅咲の体温を直に感じてしまえば、それ以上に勝るものなど存在しない。
ほのかな友情の平行線が終わり、新たに始まったのは幸福で過酷な試練なのかもしれない。
不安要素がないと言えば嘘になる。
隆尋も雅咲も本質は男を愛する性質な訳ではない。
それならば、確たる自信を持つために愛する人の味と温もりを覚えておきたい。
この味と触感を忘れなければ、永久に媚薬を施していれば、何もかも上手くいきそうな気がするから。
隆尋は自分自身の唇を雅咲の唇に接近させていくも、雅咲に寸止めさせられてしまった。
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