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歩帆がベッドの真横に食事を置く。糢袈の規則正しい寝息が微かに聞こえてくる。その生きている事を証明する呼吸が弥生の鼓膜を擽るのと同時に安堵させる。
「不思議でしょう? 本当に眠っているだけなのよ」
意識不明とは違う。
トイレに連れて行けば眠りながら排尿、排便もする。口内に飲食物を注入すれば喉を動かして飲み込み、眠りながら食事もする。
けれども、どんなに大声で名前を呼んでみても、身体を大きく揺すってみたり叩いたりしてみても、大音量の音楽を耳元で流してみても糢袈は目を覚まさない。全くの無反応だ。
外部からの刺激で糢袈が目覚める事は一切なく、糢袈の瞼が自然と開かれるまで糢袈は眠り続けるのだ。
寝返りもしない、真っ直ぐベッドに横たわる糢袈の身体を歩帆がゆっくり起こそうとするのを見て、すかさず弥生が「僕も手伝います」と言いながら糢袈の肩に手を回して抱き支える。
こんなに間近で糢袈の屈託無い寝顔を見ていると、キスしたい衝動が沸き起こってきてしまう。
今はそんな淫らな事を考えている時ではない。
弥生は不謹慎な欲望の塊を心の中に押し戻して沈めた。
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