神秘な果樹園【 プロローグ 】

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     「このまま、お姫様と仲良く一緒に逃避行でもするつもり?」  せっかく大切に築き上げてきた幸せを、ここにきて壊されたくはない。  お願いだから、邪魔しないでくれ。  このまま興味を失って、黙って立ち去ってくれ。  その執念によって向けられた鋭い邪悪な牙を、今すぐ引っ込めてくれ。  地獄から天国へと這い上がってきたのに、再び天国から地獄へと突き落とされたくはない。逆戻りしたくはない。 「本気で逃げられるとでも思ってんの?」  死に物狂いで脱出してきたあの晩、蘿磨と与壱は一生涯めりるに従順になるのだと誓った。  何があっても、どんな酷い仕打ちを受けたとしても、例えこの身体が朽ち果てたとしても、めりるの事だけは裏切りたくはない。 「可愛い、可愛いペットちゃん。お散歩の時間はもう終わりだよ。今すぐ一緒帰って入浴の準備をしようか? その汚れた(むくろ)を綺麗に清めなくちゃね。ラマと与壱はご主人様の良い遊び道具で金づるなんだから、手放す訳にはいかないんだよ。これはもう一度、ちゃんと(しつけ)し治す必要があるかもね」  もう二度と会いたくない。顔も見たくない。声も聞きたくないラマと与壱の宿敵が、再び玩具(おもちゃ)を連れ戻そうと不敵な笑顔をしながら手招きをして呼んでいる。  あまりの悪寒に鳥肌と発疹が浮き出る。  全てを洗い流したいのに、どんなに掻きむしってもあの鼻を塞ぎたくなる果実の匂いが完全には消えてくれない。虫酸が走る。  まだ皮膚のどこかに、果肉の破片が残されているような気がしてならない。  あの記憶から抹消したい、頑丈に封印してきたおぞましい果樹園とは決別してきたのだ。  住み慣れない故郷には、嫌悪感しかない。  蘿磨と与壱の棲み家は、めりるから与えられた物置小屋だ。  その心安らぐ居場所を奪われてなるものかと、蘿磨と与壱は恐怖感に屈伏せずに堂々たる姿勢で刃向かった。 【 神秘な果樹園 】プロローグ  ♚ ━━━ Fin ━━━ ♚       
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