脇役達の番外編。①

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     まだ誰も登校していない朝の教室は静寂に包まれており、いつもより広く感じる。  クラスメイト全員の机と椅子が、まるでクロスワードのように並んでいる。  あと数分も経てば、一人、二人、三人と生徒達が教室に入ってきて、教室の中が談笑で賑やかになり熱気に溢れるのだろう。  めりるは贈り物として可愛らしくラッピングをしてもらった小包を手に持ち、一つの席の前に立っていた。  決まった目的があるお店巡りは、自分用に商品を選ぶよりも、誰かに贈り物をしたいと真剣に悩み、選ぶ事のほうが楽しかったりする場合もある。  金銭以外の贈り物をする事が初めてなめりるは慣れない買い物に四苦八苦してしまった。  何故ならめりるにとって、お金が人と人との絆を繋げる全ての手段だったのだから。  めりるが自分自身の手を滅多刺しにして傷付けた時、渚紗が自分のハンカチを取り出してめりるの手に優しく巻いてくれた。そのハンカチはめりるの真っ赤な血で汚れてしまい、渚紗はめりるに「お金以外の別の形で返してね」と言ったのだ。  その渚紗からの言葉を参考にして、めりるは渚紗へのお礼品は何が良いのかと、何をすれば渚紗が一番喜んでくれるかをめりるなりに真剣に考えた。  しかし、プレゼントとして用意したまでは良いが、どんなふうに渚紗に渡せばいいのかとめりるは思い悩んでいた。  渚紗の席の前に立ったが、めりるは未だに何も行動に移せずにいる。  直接、渚紗本人に声を掛けて、渚紗の目の前に差し出すべきなのか。それとも、こっそりと渚紗の机の中に入れて、宛名と自分の名前をメッセージカードに添えて差し上げるべきなのか。  元々、一般市民とは異なる特殊な家柄育ちのめりるには庶民的な概念がまるでない。  だからこそ誰かから口頭で教わるよりも、実際に目で見て、耳で聞き、自分自身もその場所に踏み入る事で初めて知るものだ。  これまで何の躊躇もなく、いとも簡単に大金を人に献上してきためりるではあるが、たかだか千円ちょっとの贈り物を渡すのにこんなに勇気がいるだなんて、何もかもが初めての感情だ。       
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