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めりるが教室に入った途端、クラスメイト全員の視線が一斉にめりるへと集中するが、それも一瞬で終わる。
腫れ物扱いでもするように、なるべく、めりると瞳を合わせないようにしようとクラスメイトの皆が注意を払う。
四方八方から注がれる痛々しい中傷的な視線を浴びながら、めりるは教室の中から渚紗を探す。
渚紗は登校してきており、歩菜を含めた数人のクラスメイトと楽し気にお喋りしていた。
「渚紗さん、あの……」
めりるがゆっくりとした、おぼつかない足取りで渚紗に近づく。
「この間、渚紗さんのハンカチを汚してしまったでしょう。それで……これを、よろしかったら……」
めりるの透明感のある澄みきったか細い声とほっそりとした手が緊張気味にふるえている。
あまりにも突然のことで驚いた渚紗は丸い瞳をさらに大きく見開いてめりるの顔を凝視するが、すぐに満面の笑顔でめりるからの贈り物を受け取った。
「めりる、ありがとう。開けても良いかな?」
めりるは返事をする代わりに照れくさそうに小さく頷いた。
めりるが渚紗にプレゼントしたのは、兎と蝶々、そして小花模様が鏤められたハンカチだ。
「わあ! とっても可愛い。めりる、ありがとう。大切に使うね。でも使うのが勿体ない気もするな」
渚紗がその場にいる仲良しのクラスメイトにもハンカチを広げて自慢気に見せびらかす。
「あっ! それから前から思っていたんだけど、めりるの、その〝さん〟付けで呼ぶの何とかならないの? 何だか堅苦しいよ」
膨れっ面をした渚紗がめりるを咎めるが、これは本気で怒っている訳ではない。
気さくな口調で冗談混じりに叱咤する事で、渚紗はその窮屈でしかない距離感を縮めようとしているのだ。長年めりるが信じて疑ってこなかった常識外れな固定観念を塗り潰しては打ち砕き、完全に取り除いてもらいたいのだ。
「メリーちゃんも渚紗ちゃんて呼んだら? わたしの事も歩菜で良いよ」
歩菜も渚紗に賛同する。
めりるは丁寧にお辞儀だけすると、いつもそうしているように自分の席に座った。
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