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「妃若って美人だけど、何をするか想像つかねぇーし、色々とヤベェ奴だと思っていたけど、ああやって普通に笑うことも出来んだな」
梶渕 昇が独り言のように呟いた。そして「あんな性格じゃなければ問題ないんだけどなぁ~~。ぶっちゃけ外見はめっちゃタイプだし」と朗らかに付け加えた。
とはいえ、昇は男としての一般論を述べているだけであり、本気でめりると男女の関係になりたいとは望んでいないようだ。
「福望、妃若からハンカチを貰ったりして、妃若と何かあったの?」
漫画を読んでいた寺岡朋哉が顔を上げる。
整った目鼻立ちにスラリとした長い足、さりげない気配りが上手な朋哉に好意を寄せる女は沢山いるが、当の本人である朋哉は生身の女は友達としてなら付き合うが、恋人としては眼中無しで、どうやら二次元の女にしか恋愛感情を抱けないらしい。
残念というか、勿体ないというか、容姿端麗な朋哉は己のモテ具合や好感度よりも、ハーレム漫画やギャルゲーに登場する女キャラ達の好感度を上げる事のほうに夢中になっている。
朋哉は暇さえあれば、漫画を読むかゲームをしているか、そしてアニメ観賞の、そのどれかだ。
「うん、ちょっとね。めりると歩菜だけの秘密なんだ」
渚紗と歩菜が意味深な素振りで顔を見合わせると悪戯っ子のように笑う。
「えぇぇーー! 何だよぉーー! 教えろよぉ~~!」
わざと可愛らしく拗ねてみせる昇が大袈裟に手と足をバタバタと動かす。
「あたしも気になる!」
星歌も身を乗りだしてきて、めりるの事に興味津々だ。
学校でも学校外でも仲良くしている皆に疎外感を与えてしまっている現状に些か心苦しくもあるが、あのめりるが起こした惨劇を公言してしまうのは、渚紗も歩菜も胸が締め付けられるほどに良心が痛むのだ。
控えめにしていても、発狂していても、誰もが認める美少女な同級生は良くも悪くも目立つ存在で周囲をざわつかせる。
そんなふうに針の筵のような扱いをされてもめりるは動じない。むしろ慣れている。肝が据わっているのだ。
ただし例外もある。
それは愛する人の心が自分から離れてしまう場合だ。
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