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森の奥は少女と出会った所よりも尚薄暗く、より冷たい空気が体にまとわりつき、そして生き物の気配を感じさせない不気味な場所であった。
何かいる。どんなに鈍感な人間だって、直感的に分かる程に化物の気配を感じる。
そんな中を、少女と俺は二人、無言で歩き続ける。
「……なあ、この多くにいるのは、どんな化物なんだ?」
「街の人を見た? あれは化物にやられてしまった人たちよ。私はそうならないように警告したのだけれど」
「やられたと言っても、死ぬ訳ではないんだな」
「えぇ。まぁあの状態を生きているって言うのかは分からないけどもね」
そりゃ確かに。
「あれはそういう人間を量産する化物。誰も望んではいないというのにね」
「どういう意味だ?」
「……魂を預かり、肉体を増殖する。ただそれだけの化物よ」
「そんな化物、聞いた事無いな」
「そりゃそうよ、だってあれは……」
少女が言いかけて、止める。その場の空気が明らかに変わったからだ。
辺り一面には例の甘い香り。最早甘いなんて物ではない。頭痛を起こす程に強烈な香り。油断をすれば肺腑の奥の方まで優しく掴まれてしまいそうな香りだ。
「噎せ返る程だ」
「近くはこんなもんじゃないわよ。引き返す?」
「まさか」
とはいえ、正気ではいられそうもない程の香り、口元を袖で塞ぎながらなおも進んでいく。
「得意の風で吹き飛ばしてやればいいじゃないか」
「私の起こす風くらいじゃ、この濃さの匂いはどうにも飛んでいかないの。まるでこの場に何かで貼り付けられているみたい」
「なるほどね」
目を細めてみると、甘い香りを絡めるようにして力の糸が見える。少女は空気を糸に纏わせていたが、化物は甘い香りを纏わせてこの場に留めているようだった。
通常の人間には見えまい。ここが今、まるで蜘蛛の巣のようになっている事を。この糸に掴まった途端、絡め取られ、化物の養分になるのだろう。
……この場合はイソギンチャクの方が近いか。
などと下らない事を考えていると、どうやら目的地に辿り着いた様である。
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