闇の声

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竹林を渡る風が吹き抜ける先に、 今まさに崩れようとするような廃屋が、 緑の中のシミのように沈んでいる。 中に入るとすえた匂いに思わず息が詰まる。 ぼろぼろの崩れた板戸の下に、半分埋もれるように 何かの塊が見える。 時折朽ちた壁板から竹林の風が 虎落笛(もがりぶえ)のような哀しげな音を立てて吹き込むたびに、 厚く積もった塵の表面だけが舞い上がり、またあらたに積もってゆく。 おりしもあちこちの破れ目から射しこむ薄日が、 細く筋になってその塊を浮かび上がらせる。 重い塵を含ませたそれは、大量の人の髪の毛だった。 眼を凝らし辺りを辿れば、ぼろぼろの服の合間に、 人の形に細い白い骨ものぞいている。 足元で踏み折る軽い乾いた音に、はっと歩みを止めれば、 そこここに同じような(むくろ)が 幾体も折り重なるように薄暗がりにみとめられる。 いくつものシャレコウベの、眼窩(がんか)穿(うが)かれた空洞の闇が、 歯をむき出して笑っているようにも見える。 どのくらいここにこうして在るのだろう。 何故ここに在るのだろう。 また、夜が落ちてくる。 幾度も繰り返された朝と夜。 変わらない、動かない時間。 しかし。 今夜は何かが違う。 遠くでおびえたように、繋がれた犬たちが空に鼻先を向け 幼子が母の温もりを求めて、火がついたように泣きだす。 空には魔物がほくそ笑む形の月。 風が停まる。 音が停まる。 闇が。 動き出す。
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