・こんな、わたしを。

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・こんな、わたしを。

中学2年の夏。俺はレンナをデートに誘う事にした。 付き合っていた――というわけではない。 でも、普段からそこそこ仲は良かったし、少なくともガールフレンドと呼べる関係ではあったと思うし、自惚れていたわけではないにしろ、少なからず彼女が俺に対して好意を抱いてくれているだろう、という自信はあったので、きっとOKしてくれると思ったのだ。 放課後、俺はレンナを適当な理由(確か、授業のノートを見せてくれ、とか、そんなだった)で呼び出し、適当な雑談を交わした後、さも『今ふと思いついた』というふうに、ふっと顔を上げて、目の前で何かの本を読んでいたレンナを、すっと見据えた。 「……あのさ。レンナ、今度の日曜、ヒマ?」 「……。……んー?」 夕陽色に染まるレンナの目は、まだ本の中を追っている。 待つ事数秒、本の中の世界からやっと帰ってきた彼女は、「何が? ヒマ? ……何が?」と首を傾げた。 はあ、とため息をついてから、俺はシャーペンを机の隅に置いた。 「あのですね。わたくし(いずみ)は、レンナさんが今度の日曜日、ヒマかどうかを訊いたのです」 「おー、なるほど。あの泉さんが、レンナさんに、ヒマかどうかを(たず)ねたと」 レンナは少しだけ何かを考えてから、突然手を、ぴん、と挙げた。 「スイゾクカン」 「……。は?」 「あれでしょ? 『ヒマなら、どこか行こうぜ』とか、そういう話じゃないの?」 「……、あー……、いや……」 頬杖をつきながらじっとこちらを見てくるレンナに一瞬たじろいでから、「まあ、そう、だけど」と続ける。 レンナは、へへ、と小さく笑い、「わたし、クマノミ見たい。……ね、泉、ふたりで行こうよ。連れてってよ、水族館」とはしゃいだ。 その様子は、まるで以前のレンナに戻ったようで――その時俺は、レンナと一緒にデートに行けるという気恥ずかしさと、レンナが久しぶりに笑ってくれたという嬉しさとが頭の中でぐるぐる回っていて、有頂天になっていた。 それ以外の事は、特別何も考えなかった。 きっとレンナの方は、あの時から。――いや、多分もっとずっと前から。 彼女は『彼女自身』について、俺が想像もつかないような多くの想いを抱き、そして、多くの事を考えていたのに。
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