・こんな、わたしを。

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―――― ―― その日のデートは、割と絵に描いたような無難な流れで――それこそ、『私服姿、いいじゃん』的な会話から始まり、『かわいいねー』とか『すげえなー』とか言いながら館内のいろいろな魚を見て回って、『それおいしそう』とか『一口ちょうだい』とか言いながら昼ご飯を食べて、イルカのショーを見て、ペンギンを見て、深海の魚を見て――気づけばもう夕方になっていた。 さすがに、もうそろそろ、帰る時間かな……と、頭の中では分かっているのだが、なかなかそれを口に出す事が出来ない。 ぼんやりと、余韻のようなものに浸りながら、何を見ると言うわけでもなく、薄暗い空間を静かに歩く。 ――と。隣にいたレンナが突然小走りになって、俺の目の前に立ったかと思うと、ゆっくりと天井を仰いで、「見て。この時間は、また違った雰囲気で、すごいよ」と息を吐き出した。 「ああ……」 言いながら、俺も辺りを見回す。入館してすぐのところにある、トンネル水槽だ。 さっき見た時はまだ明るかったけれど、今は水にオレンジ色が混ざって、なんと言うか、やたらと切ない気分にさせられる。 様々な色をした魚たちが辺りを縦横無尽に泳ぐ様子を眺めながら、レンナは、小さな吐息を漏らした。 「なんか……人間(ひと)みたい」 「……人間(ひと)?」 「うん。見た目はみんな違うけれど、みんな、すごくキレイで、キラキラしていて。 ……あたたかくて」 レンナは、その吸い込まれそうな美しい瞳で、どこか遠くを見ているようだった。 ……その時俺が、何を考えていたのか。それは今でもはっきりと憶えている。 俺は、馬鹿で、……どうしようもなく、馬鹿で。馬鹿だった。 その切なさを含んだ彼女の瞳と、その時の雰囲気とが混ざり合って――『今ならきっと、彼女との心の距離を縮める事が出来る』と、そう思ったのだ。 彼女の気持ちなど、何ひとつとして汲みとれてはいなかったのだ。
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